第194話 エキシビション

「流石ですね、ツムギ様」


 担架で運ばれていくクロノスを眺めていると、エル王女が観客席の一番手前まで来て声をかけてきた。


「王国を離れてから、本当に頑張ってきたのですね。

 ただ今の勇姿、他の勇者候補の皆様にも見せてあげたかったです」

「そういえば、ダンジョンに潜ってるんだっけか」

「はい、お伝えするのが遅れてしまい申し訳ございません。

 皆様はダンジョン最深部を目指して探索中です」

「いいよ、別に興味ないし」


 言葉を交わしていると、再びアナウンスの声が響いた。


「さて、ついにここまで来てしまいました。

 会場は生徒でいっぱいですが、一体だれがこの状況を予想できたでしょう!

 現在、この舞台に立っているのは、なんとGクラス代表です!

 かつてこんなことはありませんでした! ……ですよね先輩?」

「はい、いままでGクラスの方は出場もしたことがありませんし、まさかBクラスと試合になるなんて思いもよりませんでした」

「まさに歴史的瞬間! 最後を飾るBクラス代表に出てきてもらいましょう!」


 扉が開いて――裸の男が出てきた。


「あ、え!? これは何事!?」


 予定外の出来事なのか、アナウンサーが慌てだす。

 裸の男は白目を剥き、酒で酔ったかのように前へふらふらと歩き出す。

 そして、倒れた。

 その奥からもう一人、現れる。


「はい注目! 歴史的瞬間を飾るこの魔族様を目に焼き付けておくといい!

 ライムサイザー様のご入場だ!」


 青色のパーカーを片手に持って、自身で実況を始める苔色髪の男。

 スライムの特性を持った魔族、ライムサイザーがそこにいた。

 それが確認できた瞬間、俺の横にはオウカと生徒会長、カイロスにおじさんが並んだ。

 全員が武器を取り出している。


 生徒会長が、ふぅと溜息を吐いた。


「品のない登場の仕方、酷く興醒めだ」

「ああん? いいから約束通り妖狐族を差し出せ。そうすれば大事な生徒様は死ななくて済むぜ?」


 周囲を見渡すと、各所で入り口にスライム上の粘液がへばりついていた。


「どうやら閉じ込められたらしいな」

「それは、彼も逃げられないということさ、心配はない」

「あのー? 生徒会長様? これは一体何でしょうかー?」


 生徒会長と状況確認をしていると、頭上から実況の声が響く。

 観客の生徒は、何が起きたのか分からないと言った様子。

 状況を察した生徒会長は声を張り上げた。


「Bクラス代表は見ての通り出場不可能。

 ここからは、我々と新型の魔物との演技会といこうじゃないか」


 エキシビションというその場しのぎのでたらめに、しかし会場の空気が歓声で揺れる。

 彼らはこの状況がどういうものかわかっていない。

 それでいい。混乱で騒がれる方が危険だ。


「演技会ぃ? つまり、妖狐族は」

「悪いが用意できなかった。だから――」


 ボフン、と何か弾ける様な音がした。

 見れば、その音はオウカの方からだった。

 彼女の全身に白い煙が立ち込めており、しかしすぐに消える。


 そこには赤い頭巾が外れピンと立った三角形の狐耳と、スカートの下から大きく飛び出した尾っぽがあった。


 え、擬人化の魔法が解けた……?

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