第193話 ミッドガルドパルサー

「覚悟しろ!」


 クロノスの杖が振られる。

 瞬間、顔の左側で爆発が起きた。

 続けて右、腹部、足元と連鎖でも起こしたように、こちらが対応する間もなく攻撃が続く。


「こ、これはすごい! 連続しての爆破攻撃!

 クロノス選手容赦がありません!」

「こうなるのも仕方がないでしょう。

 実際、ツムギ選手は長時間魔道具を操っていましたから、攻撃の隙を与えるのは危険です」

「レヴィ先輩、さっきの魔道具を使うことがどうすごいんでしょうか?」

「スタッフが回収した仮面がこちらに届きました。どこのものかわかりませんが、仮面の裏にかなり複雑な魔法陣が構築されていますね」

「ここに魔力を送り込むことで動くんですね。

では私が試しに……浮きましたね……」

「魔法を流し込んだ上で指示を送る必要があるのでしょう。シンプルなものなら誰でも可能でしょうが、ツムギ選手は相手の行動に合わせて細かな指示を出していたと思われます」

「なるほど! それを長時間行使していたとなればクロノス選手の評価と対策も頷けますね!」

「ですが……その上を行くようですね」


 空間魔法で俺の周辺に魔法が発動する。


 ――だからどうした。

 俺はその状況の中、クロノスの方へと歩き出した。


「くそっ、なんで、なんで歩いてこれるんだ!」

「残念だがダメージがないんでな」


 クロノスの顔が青ざめていく。


「至近距離で攻撃を受けて無事なはずがないだろ!」

「攻撃が避けられないなら当たらなければいいだけ。

 全身を魔力の膜で覆い、ダメージを徹底的に軽減させた。それだけだ」

「魔力の、壁だと!? そんな高等テクニックがぁ!」

「今度はこちらの番だ!」


 走り出す。アイテムボックスから木剣を取り出した。殺しはなしなので気絶してもらおう。


「せいっ!」


 木剣を振るった。

 が、感触がない。

 目の前のクロノスがぼやけていく。


 実体じゃないのか。


「空間魔法――陽炎遊シェンドル。貴様が攻撃したのは幻影にすぎない」


 いつの間にか後ろにクロノスが立っていた。

 その周辺には炎が蛇のように這っている。


「攻撃を防ぐというのなら、防ぎきれなくなるまで攻撃を続けるだけだ!

 空間魔法――1719-1438ミッドガルドパルサー!」


 炎が蛇となって全方向から俺に向かってくる。

 その数、優に100は超えているか。


「これはクロノス選手凄まじい攻撃だあ!」

「ツムギ選手もさすがにこれは――いえ、あれは……」

「笑って、いる?」


◆クロノス・ネメア ♂

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:21

 HP :1460/1460

 MP :2/1486

 攻撃力:1614

 防御力:1388

 敏捷性:1366

 運命力:139

 

 逃げ場はない。

 いいだろう。

 それがお前の全力なら、受けて立つ!


「水魔法、地魔法、風魔法発動!」


 迫りくる蛇の前に地面から水が噴出して遮る。

 上からは土砂が降り出し、暴風がそれらをクロノスの攻撃と共に巻き上げた。


「み、3つうううう!?」

「魔法を3つ同時発動なんて聞いたことがありません!?」

「ツムギ選手はいったい何者なんだ!? もうBクラスの魔法師と言っていいのではないでしょうか!?」

「あ! ツムギ選手の魔法によって会場が土埃と湯気で見えなく」


 周辺は俺の魔法によって視界が遮られ、クロノスの姿も見えなくなる。

 しかし、それは相手も同じ。


「くそっ、どこいった!」


 クロノスが叫ぶ。

 だめだな、声を出したらわかっちゃうだろ。

 俺は静かに地面を思い切り蹴り、クロノスに向かって一直線に跳んだ。


「――胴っ!」


 振るった木剣に、今度は感触があった。


「あ、がっ!?」


 クロノスの膝が折れ、その場に倒れる。

 俺は木剣を左右に切り払うと同時に、風魔法で会場の土埃を吹き飛ばした。

 光景が見えた中、会場はしんと静まり返り、


「――き、決まったあああああああああ!

 勝者、ツムギ選手ううううう!」


 実況の声と共に、わっと沸き上がったのだった。

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