第196話 信じて

「貴様、どういうことだ!」


 叫んだのはカイロスだった。


「なぜ妖狐を……しかも庇うなど!」


 カイロスの反応はこの世界なら当然なのだろう。

 弁明できるものならしたい。が、いまはそんな場合ではない。


「ん、まあ、口を挟むなよ」

「煩いっ!」


 ベリルの手から炎が放たれる。

 カイロスは即座に反応して杖を振るった。すると、炎がなにかに飲み込まれるようにして消える。

 ドラゴンの攻撃を容易く打ち消すとは……。

 ベリルも意外だったのか黙ったままである。


「くそ、なんだっていうんだ」

「ドラゴンだ」


 俺が答えると、カイロスが目を見開いた。


「竜だと!? そんなこと信じられるわけ――」

「お前は俺らのアビリティを知っているだろ?」

「それは……」


 異界の眼は相手のステータスが見られる。俺は地下で気づいたが、他のクラスメイトが気付かなかったということはないだろう。

 そしてそれは勇者召喚を担ったカイロスの耳に入っていないわけがない。


「人の形をしているが、あれは間違いなくドラゴンだ」

「魔族に、ドラゴンまで……」


 カイロスの顔が強張る。

 そんな中、甲高い音が一つ頭上で響いた。


 見上げれば、緑色の光が輝き、そしれ観客席を緑の膜が覆っていく。


「ぼっちとオウカちゃんよお、信じていいんだな?」


 矢を放った弓聖――おじさんが俺を見ていた。その表情は不安か困惑か、それでも俺自身を見てそう判断してくれたのだろう。


「信じて貰いたいついでに一つ真実をいうとだな、ドラゴンのせいで俺は最弱になった。

 今は足でまといにしかなれない」

「そうなのか……? まあドラゴンならなんか持ってるんだろうな。

 だが、相手の情報を教えてくれるだけでありがてぇ。

 団長さん、思うとこあるかも知れねえが、いまは殺意ある敵をなんとかしようや」

「しかし、弓聖様!」

「判断遅いと、死ぬぞ?」


 おじさんの言葉にカイロスは口を噤み、眉間に皺を寄せながらもベリルの方へと向き直ってくれた。


「はぁ、結局渡してくれないのかよ」

「我が学院の生徒を無きものにした時点で決裂だ」


 ため息をつくライムサイザーに対し、生徒会長が静かに答える。

 その声音は明らかに怒りを孕んでいた。


「生徒諸君! 目まぐるしく変わる状況に頭は冷えたか!?」


 レイミア・レルネーが声を張り上げる。


「魔族に踊らされ、冷静さを欠き、空気に飲まれた未熟さを恥よ!

 己の眼でこの場を見ろ!

 正義だと騙る魔族と、ただ怯えるだけの妖狐。どちらが野蛮で、どちらが今倒すべき敵かわかるか!」


 生徒全員が息を呑む。

 いま自らが何をしていたのか。何に囚われていたのか。それを顧みてそれが己が本来の姿なのかと。


 レイミアは剣を振り上げ、ライムサイザーに剣先を向けた。


「茶番はここまでだ。親愛なる生徒を誑かし、殺した罪を受けてもらう」

「はんっ! 俺の体内でもがくといい、雑魚が」

「スライムほど最弱な魔物に雑魚呼ばわりされる日が来るとはね」


 レイミアの言葉に、ライムサイザーが青筋を立てる。


「ところでぼっちよぉ、魔族はお嬢ちゃんが相手してくれそうだが、ドラゴンを俺たちがやるとして、どらくらい強いんだ?」


 おじさんの疑問に、俺は改めてベリルのステータスを見てから答える。


「おじさん? 何レベまでの相手なら闘える?」

「キズナリストで速さだけは自信あるんだ。300レベくらいまでの魔物なら闘えると思うぜ」

「そうか……あそこのドラゴンはレベル3000だ」

「そうか……死んだな、俺」

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