第304話 緊急性
「初めまして聖女様。魔法師団団長を務めているカイロス・ネメアと申します」
カイロスは慣れた様子で自己紹介をした。立場上こういうことも多いのだろうか。
「知りませんよ! 女の子をいじめる人は全員敵です!」
あ、この猫人族わかってないな?
やはり貴族という存在は庶民と離れた存在なのかもしれない。
そうなれば名前を告げられても理解できるはずなく。
「ネメア家をご存知、ありませんか?
ギルドでのアイテムボックスを創造し、教会とも懇意にさせてもらっているはずですが」
「カイロス、そいつ今日聖女になった奴だと思うぞ。たぶん通じない」
「そ、そうか」
俺が助言すると、カイロスは少し悲しそうな表情になってしまった。やっぱ自分の家の名前が通じないのは複雑だろうか。
「ってツムギさんじゃないですか! どうしてこんなところへ!?
あ、もしかしてクラビーを迎えに!? それならこの後商店街で一緒にお買い物とかお食事とかどうですか! すごい可愛いお店見つけたんですよ!
それとも……クラビーをお食事とかキャー!」
なんでこの人こんなテンション高いの?
後半酷いこと言ってて隣の女の人もドン引きしてますが。ふしだらはダメなんじゃないの?
「貴様、こちらの聖女様と知り合いなのか?」
「いえ、あいつが付きまとってくるんです」
「付きまとってないですよ!? 毎日ツムギ様のことを思いながらも毎日臭い冒険者たちを捌き捌き捌いての日々。
怒られようとも叱られようとも、皿を割ろうとも物を壊そうともあなたのことは忘れず。そしてついにソリーからここまで来て運命の再開を!」
「それギルドの仕事がめんどくさくなって逃げてきただろ?」
「そ、そそそそそんなことないですよ?」
口笛が吹けていない。
「いたぞ、聖女クラビー!」
教会からさらに人が出てきた。
猫人族と同じような白い服を身にまとったおじさんおばさんたち。
「まだ儀式はすべて終わっていない! すぐに戻るんだ」
「えー、だってあんな時間かかる面倒なの嫌ですよ!
もっと簡略化してからにしてください! クラビーの時間は有限!
それはすべてツムギさんの為に!」
「やはりまだ煩悩の浄化ができていないな。
すぐに連れ戻して儀式を行う! 最初からだ!」
「はああ!? あんな苦痛しかない儀式を最初からなんて嫌ですよ!」
「ならば煩悩取り払い聖女らしく慎ましい態度を見せなさい!」
わーわーぎゃーぎゃー騒ぎながら、新たな聖女様は教会内に引きずり戻されていった。
「新しい聖女様はなんというか……凄まじいな」
「ほんとあいつ空気というか流れをぶち壊すな……」
「それと知り合いらしい貴様もなかなかだと思うぞ?」
同類にしないでほしい。
「目的を忘れちゃいけない。
ここにエル王女がいないとなると、他にあてはあるのか?」
「現状、身の回りの世話をするメイドが誰も戻ってきていない。
さらに騎士団長もだ。ならば全員がエル王女と共に行動しているはず。
それに僕への連絡がない以上、緊急性は―――」
カイロスは首元のキズナリストに手を当てて数秒黙り込む。
そして怪訝そうな顔を浮かべると、自身のステータスを開いた。
表情がみるみるうちに青ざめていく。
「……まさか、そんな」
「なにかあったのか?」
「騎士団長の……バルバット・レートロードの名が。
――キズナリストから消えている」
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