第303話 新たな聖女

 カイロスと再び教会前へと戻ってくる。


「変なものに絡まれないよう、不在という体にしている可能性はある。貴様の場合では会うことはできない」

「その考えはなかったな」


 国の王女、それも勇者召喚をして勢力を拡大しているともなれば危険がつきまとうようにもなるだろう。

 その為に身の回りの世話係とか、騎士団長がお供としてつくのだ。

 それでも、知人を装って近づく悪知恵を働かせる者もいるかもしれない。だからとりあえずは「いない」と答えるだろう。


「本当に知り合いだとしても、それを知る者が確認しなければ意味がないからな。

 しかし、それならメイドや騎士団長がみるだけで……いや、貴様は例外か」

「俺は最近戻ってきたばかりだしな」


 俺がメイドの顔なんて覚えていないように、メイドも俺やクラスメイトの顔を覚えきっているとは限らない。

 知らない相手だとしても、基本礼儀をもって対応すればいいし、貴族とかなら服装でわかるだろうしな。覚えておく必要がない。


「そこの貴様」


 カイロスが教会の前にいる女に声を掛ける。

 先ほど俺の対応をしてくれた人だ。


「僕は王国直属魔法師団団長、カイロス・ネメアだ。

 緊急事態につき、エル王女に会いたい。本日はこちらで儀式に参加されているはずだ」

「ええと……」


 女はちらりと俺を見る。

 あ、断られたばかりの俺がいるとまずかったな。俺がなんかしたと思われて当然だ。


「エル王女は、こちらにはおりません。本日は欠席されております」

「嘘をつくんじゃない。欠席であれば僕にも連絡があるはずだ。

 それがないということは予定通りに行動されているということだ」


 カイロスは迫るように彼女へと近づき壁際に寄せる。

 そのまま右手で壁を突き顔を寄せていく。


「正直に答えてみろ?」


 おお、これが壁ドンというやつか。俺が壁を殴りたいぐらいだそれが正しい壁ドンだ。

 案の定、女は顔を真っ赤にしているし。カイロス本人は脅しているつもりなのだろうか、相手は「ミトラス様、ふしだらな私奴をお許しください」とか言い出しているので違う影響を与えている。


「ほ、本当にいないのです。嘘だと思いになるなら私を拷問にかけてくださっても」

「……いや、ここまでしてもそう答えるのなら真実だろう。怖がらせてすまなかった」


 カイロスが声音を優しいものに戻して離れる。女の方は「え?」と少し寂しそうな顔をしてるし俺からはもう何も言うまい。


「しかし、そうなるとどちらへ」


 しばしカイロスが考え込んでいると、


「あ! なんですか貴方! 教会の女の子になにしてるんですか!」


 建物の奥から、白い修道服を着た猫人族が現れた。

 そのテンションと布で目を隠した顔を見て、俺の本能が警鐘を鳴らす。


「聖女なり立てクラビー様が成敗してくれる!」


 新たな聖女ってお前かよ。

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