第302話 教会
教会とは、回復魔法を使える者達で組織された団体である。
冒険パーティにおいて回復役というのは重宝される存在だ。
この世界の冒険者たちは数人から十数人でパーティーを作り、長時間かけてモンスターを倒す。俺はぼっちなので例外。
長時間戦う必要があるので当然回復魔法は重要だ。この世界の回復薬はどうやら激痛を伴うので使うのを躊躇う人も少なくないらしい。俺はぼっちなので例外?
そんなわけで回復魔法を使える回復師は重宝される。
しかし人気ゆえにトラブルも多いと聞く。
そのため、教会という経由地を作ることで回復役の立場を安心安定なものにしようというわけだ。
「意外にでかいな」
教会本部はなぜか王都の外れに立てられていた。
黒を基調としたゴシック形式と言うべきか。でかでかとした建物は俺のイメージしていた清楚さと真逆な感じである。
「冒険者の方でしょうか?」
入口の前で建物を眺めていると、近くにいた修道服の女性に声をかけられた。
「申し訳ございませんが、現在は聖女様の儀式を執り行っていますので入場頂くことはできません」
「儀式?」
「新たに聖女様が加わられるので、洗礼の儀式です」
どうやら聖女というものは複数人いるらしく、儀式の間は立ち入り禁止だそうな。
「ですので、回復師がご要望でありましたら、ギルドにて申請を受け付けていますので、そちらからお願い致します」
どうやら回復魔法を使えるメンバーを探しに来たと思われていたらしい。
「いや、俺はエル王女に用事があっただけなんだが、いつ頃終わるんだ」
「エル様は来ておりませんが……?」
あれ、話が違うじゃないか。
「エル王女も聖女なんだよな?」
「はい。ですが今回は無断で欠席されております」
無断で欠席って許されるの?
ともかく、いないのなら仕方がない。
彼女も王女という立場であるなら急な用事もできるだろう。まだ連絡が来ていないだけかもしれない。
教会の人にお礼を言ってから王城へ戻る。
誰かメイドでも通りがかったら聞いてみようと思ったが、こういう時に限って誰もいない。
「あ、いるじゃん」
「……」
通りかかったのは魔法師団団長のカイロスだ。
彼は俺を見るなり訝しげな表情を浮かべる。覚えて……ない?
「ツムギか」
「覚えていてくれてよかったよ。
ところでエル王女を探しているんだが知らないか?」
「エル王女は聖女様として教会で洗礼儀式に参加されているはずだ」
「それが聞いたら無断欠席してるって言われたんだよ」
「……なに?」
カイロスの表情が険しくなった。
「エル王女はここにはいない。
だから付き添いの従者や騎士団長もいないのだが」
「それが無断で消えるってことは」
「ほぼ間違いなく――なにかがあったな」
不穏な空気が流れ始めた。
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