第301話 先の見えない
***
「最近街の様子がおかしい」
学院の教室で行われるクラスミーティングで、光本が第一声を発した。
気付いていた奴らは頷き、そうでない奴らは、目を見開く。
「気付いた人も多いと思うけど、最近冒険者の数が増えている。これに関してはセツナから、元生徒会長が人を集めているという情報を貰った。
どうやら――魔族が来るらしい」
教室内がざわめく。
「僕たちは魔族を直に見たことが無い。
レイミアさんが動いているということは、彼女は魔族についてなにか掴んでいるんだと思う。彼女に協力を請おう」
「寄せ集めの冒険者でなんとかなるのか?」
男子が質問を投げかけた。
光本は小さく息を吐いて、少しばかり目を細めた。
「正直……無理だろう。
でなければ、勇者召喚をエルがする必要も無いからね」
「それなら協力なんていらなくないか?」
「一緒に戦おうってお願いするわけじゃないよ。
集めた冒険者と遠征に行くならついて行かせてもらうって話しさ」
それで納得した男子も頷いて黙る。
「街に魔族が来る可能性があるんじゃないか?」
今度は俺が手を挙げて質問する。
「それなら待ち構えるだけだから好都合だ。
冒険者の人たちには街の人を守ってもらおう」
こいつら……。
「魔族は僕たちが倒す」
「紡車でも戦えたんだ。俺たちなら余裕さ」
「さっさと倒して元の世界に戻ろうぜ」
魔族を舐めすぎだ。
戦ったことがないからなのか、俺の説明も悪かったのかもしれないが。
魔族はそこら辺のモンスターや人類とは別次元の強さだ。少しでも気を抜けば容易に殺されてしまう。
そして、この世界はゲームのような要素があるが現実だ。死ねばそれで終わりだ。
それを……理解してるのか?
「……もうひとついいか?」
「なんだい紡車くん」
「元の世界に戻るって聞こえたが……その手段はあるのか?」
ついでの質問のつもりだったのだが。
やる気で満ち溢れだしていた教室が一瞬で冷えきる。
「召喚したのはエルだ。彼女たちが手段をしっているはずだ」
「それを確認したのか……?
俺達が召喚された時は結構な人数の魔法師団が召喚魔法に携わっていた。
もし街中で戦闘になって魔法師団が減りでもすれば、魔法があったとしても発動すらできないなんてこと起こらない保証がないぞ」
「ツムギくん」
ヒヨリが俺の隣にきて。
そして耳打ちをした。
「――空気読もうよ」
クラスメイトの視線が俺に集中している。
余計なことを言ったのかもしれない。
いや、そうじゃない。
隠していたものを表にしてしまったのだ。
魔王復活を阻止すれば平和になり元の世界へ戻れる。
その確証がない中で疑問にしてはいけなかった。
先の見えない不安は意思を揺るがす。
でも――本当に戻りたいなら、先延ばしにしてはいけない。
「なら、エルに聞いてこよう」
俺は立ち上がる。
目の前のヒヨリの表情が少しばかり歪んで心が痛むが致し方ない。
戻りたいというなら安心材料を得るべきなのだ。
一人教室を出ると、「エルなら」と光本が後ろから声を掛けてきた。
「今日は城にいないよ。
彼女は聖女として教会にいるはずだ」
助け船、と思いたいところだが、ついてこない当たり俺に丸投げかよ。
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