第300話 奥の手
「クラビー……?」
「はい! 覚えてますよねツムギさーん♡」
「いえ、知りません」
「あがぁ!?」
俺が答えると、クラビーと名乗った女は竜の爪で背中を抉られたような悲鳴をあげて身体を仰け反らせる。
「なんでですか!? あれほど熱く、激しい夜を過ごした仲じゃないですか!?」
「え、ちょっと適当なこと言わないでくださいます? 美人局ならあちらに憲兵がいるので」
「他人行儀な敬語やめろや!」
お前はラフすぎるだろ。誰だよほんと。
「紡車……あなたって人は」
「いやいや両木さん? この距離感みて? どうみても他人じゃん、人違いか魔族だよこいつ」
「クラヴィアカツェンじゃないですぅ! れっきとしたクラビーですぅ!」
あれ、こいつクラヴィアカツェンのこと知ってるのか。
ということは魔族絡み……いや、俺が本当に覚えてないだけで知り合いなのか?
「ツムギさん……覚えて、ない?」
「君の名前は」
「クラビー!」
「やっぱ知らんわ」
「今の茶番返せ!」
ノリのテンポが合いすぎて怖い。
「とにかく、俺ら忙しいんでこれで」
本能がこいつは沼だと囁くので早々にギルドを出ようとする。
「いや行かせませんよ!?
なんのためにクラビーがここに来たと――」
「ギルドの姉貴ー! ここに仕事サボってるギルド嬢がいますー!」
「あー陰湿! 告口とか陰湿! ぼっち思考め!」
そう叫ばれている間に、アマゾネス姉貴がやってきて猫人族を連れていった。
「やっぱ都会ってのは変なのが多くていかんな」
「そういう問題?」
両木さん冷静な返しはやめていただきたい。
「変なのに絡まれて話が逸れたが、結局どうするんだ?
このままダンジョン探すなり、まあさっきの変なのが言う通り人を増やして王都ダンジョンに行くか」
「興醒め、帰る」
ですよね。
***
「オウカくんの奥の手、受付の奥に連れていかれたが」
「何やってるんですかクラビーさんー!」
依頼ボードの周りが良く見える酒場の一席で、レイミアとオウカはフードを深く被って3人の様子を見ていた。
「彼女を助けなくていいのかい?」
「ポンコツはもう知りません」
ぷいっとそっぽを向くオウカ。
しかし、その表情は曇っていた。
「クラビーさんの印象強い元気さ加減なら、ツムギ様の記憶も飛び起きると思ったんですけど」
「それでわざわざソリーまで戻り、彼女を連れてきたのか」
オウカは一か月前に王都を抜けて南の街ソリーへと向かった。
そしてリーの精霊魔法である
ちなみに、リーは契約によって街に縛られているのでついてこられなかった。
「クラビーさんでもダメなら……」
オウカは自分の影を見つめた。
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