第299話 張り紙

「多いの……?」

「ああ、そこに食堂があるだろ?

 この時間にたむろしている連中ってのは、目的の依頼がなくて暇してるのがほとんどだ」

「やりたい仕事しかしないなんて体たらく」

「目的に沿った依頼ってのは重要だぞ?

 現に俺たちもレベリングに適した依頼を探しに来てるんだしな。

 他にも、自分のランクの依頼がないと暇になるな」

「私はFランクからになると思うんだけど」

「今回は俺がいるからCランクまで受けられる……が、モンスター大量発生みたいな依頼はないな」

「ていうか、少なすぎない?」

「いつもはボードが埋まるくらいあるんだけどな」


 冒険者が多ければ依頼はどんどんなくなるのだから当然ではある。


「だが依頼もない上に冒険者が多いとなると」


 視界の隅に別の張り紙を見つけた。


『◆屈強なる冒険者求む◆

 歴史の動くその時に名を刻みたいものはレルネー家まで

 王都に滞在しているだけでも報酬あり』


「なんじゃこりゃ」

「レルネー家って、元生徒会長の家じゃなかった?」


 元生徒会長と言えば、一か月前に変なことしてきた女だ。

 冒険者が溢れているのはこの張り紙が原因みたいだ。


「にしたって、王都にいるだけで報酬はやりすぎだな」

「冒険者なんか集めてどうするんだろう」

「歴史の動くとき……ドラゴンでも討伐するとか」


 丁度一匹逃げているし、それを知って集めているならすごい情報力だ。


「下の依頼と関わりがあるかも」


 両木が指差したほうにも依頼が貼りつけられていた。


『◆妖狐族討伐依頼◆

 現在王都に妖狐族と思われる女が紛れています。

 特徴は大きな耳と尻尾。年齢は10ほど。

 一時期学院に潜んでいたとも言われます。

 有力情報にも報酬を出します。

 邪視教撲滅パーティー代表クロテイルまで』


 妖狐と言えば、これも一か月前に遭遇している。

 特徴はほぼ一致。ばれてるじゃんあの子。


「元生徒会長もエル王女派だから、魔族とか邪視のことは何とかしたいはず。

 それに最近、妖狐族を殺すって声が街中でよく聞こえてくる。妖狐族の存在は確かなんだと思う」


 そういえば、両木には妖狐の少女に会ったことを話してないな。


「なるほど。だが依頼主が違うしなあ」

「なら――魔族?」


 それが一番あり得そうだ。


「この王都は既に魔族の手中かもしれない……か」

「なに?」

「元生徒会長が言ってたんだよ。もしそれが事実で、彼女だけがそれに気づいて対策に講じているって可能性もある」

「なんで私たちに話が来ないの? 彼女なら勇者候補が王城にいるのも知っているはずなのに」

「ヒヨリが騙しにきてるんだって追い払ったからな」

「そう。なら仕方ない」

「仕方ないな……。

 ともかく、依頼がない状況では冒険者なんて肩書は関係ない。

 単独でダンジョンを探すか、遠出する他ないだろう。

 手っ取り早いのは王都ダンジョンの上層に踏み入ることだが」

「これだけ依頼がないと、そうするしかない気がしてくるけど……でも、前の蜘蛛みたいな敵がたくさんいたら二人じゃ対処できない」

「そうだなあ。俺もステータスはキズナリストなしの基本値だしな」



「ならば! 三人ならいかがですか!」



 突然後ろから声を掛けられた。

 ギルド内に響き渡ったその大きな声に驚いて振り返る。



「どうしてもキズナリストが必要な時に、一時的な契約としてレンタルリストってのがあるんですよ――ツムギさん!」


 ギルド専用のメイド服を着ており、白い布で目元を隠した猫人族。

 彼女のにやりとした笑みを見て、背中を寒気が奔っていく。


 本能が、あいつはやばいと言っている。


「オウカさんの最終兵器ことクラビーが、王都にやってきましたよ!!」

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