不穏と不明確(王都)
第298話 トイレ
便所飯、というものを体験したことがあるだろうか。
異臭の中で食すご飯というものはそれはまた味わい深くもなんともないし俺も体験したことないけど。
では、便所で寝起きしたことはあるだろうか。
俺はこの一か月、目が覚めるとトイレにいる。何故かはわからない。
仕方ないので、綺麗な女神様がいることを信じてトイレ掃除を日課に加えた。以上。
***
ダンジョンを半分踏破してから、約1ヶ月が経過しようとしていた。
俺たちはダンジョンの残り半分の踏破を断念し、各々がレベル上げに勤しむこととなった。
理由は上層もモンスターが少なく、かつ強敵がほとんどなため、レベリングの効率が悪いからである。
「それじゃあ、午後は各自で自由に。解散します」
学院の教室に集められたクラスメイト達から空気の抜けるような声が漏れる。
俺たち勇者候補は午前はこの世界の勉強、午後は自由にレベル上げというスケジュールだ。
クラス内は仲良しグループに分かれると、それぞれ教室を出ていく。
俺はもちろん一人だ。
クラスメイトは俺のことなんて受け入れていない。光本が言うから一緒にいるだけで、敵意も殺気もむき出しのままである。
俺自身も特別仲良くする気はないからいいが。
さて、午後はどうするかなと身体をポキポキ鳴らしていると、
「随分と身体が痛そうだけど」
灰色のマフラーを巻いた両木が話しかけてきた。
「ちょっと寝違えることが増えてな」
「それに、なんかトイレ臭くない?」
「それはないはずだ」
ヒヨリと相部屋になってるのがいけないのか、俺は気づかぬうちにトイレへ移動しているらしく、毎朝便座の上で目を覚ます。
その後、ちゃんと水浴びもしているし服も洗っているから匂わないはず……。
クンクンと服の匂いを嗅いでいると、両木が鼻で笑った。
「冗談だけど、毎朝トイレから大変ね」
見られていたのか……。
「そんなこと言うために話しかけてきたのか?」
「違う。頼みがあるんだけど」
他ならともかく俺に頼むって、こいつ友達いないのかな……。
「頼みって?」
「レベル上げするのに、ギルドで冒険者の登録したいんだけど、あそこよくわからない」
「してないのか。てっきり全員してるものかと」
「そういうの好きな人たちはすぐに登録してたけど、私は興味なかったから。
だけど、レベルを上げるなら依頼を兼ねたほうが稼げるし効率良いと思って」
「まあ、確かにな」
レベル上げと生活費稼ぎなら冒険者が一番だ。
***
「と言っても、依頼がほとんどねえんだよなあ」
王都ギルドは最初に建てられたギルドであり、この大陸で一番大きなギルドでもある。とどこかで聞いたことがある。
そんな施設の依頼ボードはほとんど受付済で残っているのは初心者向けの雑草集めとかだけだった。
「紡車、冒険者ってそんな競争率激しいの?」
「いや、いくらなんでも依頼がなさすぎる。
それに――」
周囲を見渡すと、やけに冒険者が多い。
「俺らの知らないところで何か動いてるな」
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