踊らされ続ける(不明)

第305話 生者のみ

 以前受けたクエストの中に、行方不明者の捜索があった。

 その時、その人物の生死を判断する材料としてあげられたのがキズナリストである。


 キズナリストは生者のみが表示され、その恩恵を受けることができる。

 だから、自身のステータスが下がったときにまず確認するのがキズナリストだ。

 名前がなくなっている人物がいれば――


「団長が……死んだというのか」


 カイロスの声が震える。

 俺としても驚きの事態だ。バルバット団長と言えば、剣豪で名が高いことは王都にいればすぐにわかる。魔法ならカイロス、剣ならバルバッドと二人の団長は有名だ。


「キズナリストを解除した可能性は?」

「だとしたら、事前に連絡があってもいいはずだ。

 それすらできない状況でキズナリストを切るなんて話があるか?」

「たとえば、純粋なステータスで勝負しろと脅されたとか」

「それなら他の従者が……くそっ全員消えている!」


 カイロスがリストを確認して顔を強張らせていく。


「エル王女とは結んでいないのか」

「王族は特定の親族としか結ばない、という話は貴様も知っているはずだ。

 エル王女と直接連絡を取れるのは国王と第一王女か……謁見までに時間が掛かってしまう。

 しかし、騎士団長が負けるなんてこと」

「……まさか、魔族か?」


 俺の答えに、カイロスは唇を噛む。それから一度深呼吸をした。


「向かうぞ」

「どこにだ?」

「もし緊急事態で、エル王女を引き連れて逃げているとするなら。

 王族と師団長のみが知る場所がある」


***


 貴族区域の隅に小さな小屋があり、中へ入ると転移魔法が備え付けられていた。

 二人でそれに乗ると、視界が変化する。


「……ダンジョン?」

「に模した建物に過ぎない。

 どこにあるか分からないように、こうして転移魔法を使っている」

「敵にばれたとしても、ダンジョンに繋がっていたと思わせるためか」

「そうだ。ここを正しく利用できるものは一部のみ」


 小さな個室のような空間。道が伸びている出入り口は一つだけだ。

 しかし、カイロスはその道を進むことなく右側の壁に触れる。すると、魔法陣が浮かび上がり、岩の形状が変化して扉が現れた。


「もし騎士団長が最後まで務めを果たしているなら、エル王女はここにいるはずだ」

「いなかったら……」

「言うまでもない」


 あくまでも冷静に、といった様子で答えてくるが、表情は怒りを噛み殺したかのように歪められていた。


 扉を開くと中は暗く明かりはない。カイロスガすぐにカンテラを取り出す。

 王族が使うためか、照らされた場所は白い廊下が続いていた。

 

 歩みを進め――


「ッ!?」


 見つけたのは、床に僅かに跳んでいる血飛沫。

 同時に目にした二人の足が止まる。


「やはり……そうか」


 カイロスが明かりを前に突き出す。

 照らされたのは白い廊下を汚す赤と、身体を切裂かれたメイドたちの死体だった。

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