第270話 建前
「あ、ああ……悪かったよ」
男子生徒が黙る。
やはり、このクラスのまとめ役は光本らしい。
「紡車くん」
光本が立ち上がり俺の前に立つ。
先程とは違う普通の声音だ。
「無事でいてくれてよかった。
あんな別れ方をしたから、何かあったらと思っていたんだ」
「何も言わなかったのは悪かったよ。俺も色々思うところがあったんだ」
「僕も、あの時は手にした力に驕っていた。
本当にごめん」
光本が頭を下げてきた。
クラスメイトがまたざわつく。
その光景に、俺は妙な違和感を覚えた。
「……いいじゃないか。
それでクラスがまとまったんだ」
「……」
光本と視線が交わる。
それで理解した。
こいつは俺に近い考えを持っている。というか、同じような生き方をしている。
それでいてどのように振舞えば、この状況を最善の形にできるか考えて、いまの行動だろう。
要は、全部建前だ。
「おい紡車! お前ふざけんなよ!」
大声を上げて割り込んできたのはクラスで一番ガタイのいい男だ。
いつも光本とつるんでいる奴だったと思うが。名前は忘れた。
「コウキがどれだけ頑張ってみんなを強くしてくれたかも知らないくせによ!
お前との模擬戦なんて遊びにすぎねえんだよ。雑魚が自己中してんじゃねえぞ!」
「やめろヒビキ! 紡車くんにはこれから一緒に闘ってもらわないといけないんだ!
いま喧嘩なんかしてどうする」
「いや、コウキ、こいつには分からせないといけねえ。
一人で戦って強くなったつもりだろうが、キズナリストもないお前の程度なんて知れてるんだ。
調子こいてる奴には上下関係ってものを分からせないといけねえ」
ヒビキとかいう奴が手をポキポキと鳴らすと、腕に一瞬赤い光が奔ったのが見えた。
何かの魔法、アビリティだろう。
一発くらい素直に殴られれば問題も収まるかと思ったが、殺されそうな勢いだし抵抗したほうがいいみたいだ。
といっても、やはりキズナリストのない俺のほうが不利な状況ではあるか。
あ、たしかこいつ藤原って名前だ
「らぁあ!」
と、考えている間に藤原が拳を振るった。
俺に当たる距離じゃない。と思ったら腕から赤い閃光が飛びだした。
殴るんじゃなくて魔法を放ってきたのか。
大きな音を鳴らした魔法が俺に衝突し――弾けた。
「あ……?」
藤原の口がぽかんと開く。
俺は立ったままだ。ダメージも感じなかった。
「ふっざけ……!」
魔法が効かなかったことに怒ったのか、藤原が青筋を浮かべると、さらに魔法を放ってくる。
しかし、そのすべてが俺に触れた瞬間、消滅する。
「なんで、くそっ」
ついには藤原が肩で息をしだす。MP切れ直前だろう。
「もういいだろう、ヒビキ。
彼が僕たちに必要な存在なのはわかったはずだ」
光本がその肩を叩く。
というか、勝手に話が進みそうなので口を挟む。
「まてよ。俺は別に一緒に行動する気はないぞ?」
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