第271話 召喚された理由

「おまえっ」

「ヒビキ」


 俺の言葉に突っかかろうとした藤原を、光本が手を出して抑える。


「紡車くんは僕たちの話し合いも知らないし、キズナリストの呪いがある以上、本人もそれなりに考えがあるはずだ」

「コウキ……わかってるよな?」

「ああ」


 互いに何か納得した様子で、藤原は後ろに下がった。


「紡車くん悪かった。でもすごいね、魔法を全部受け止めるなんて」

「まあ……そういうスキルやアビリティもあるってことだ」

「君は僕達以上にいろいろと経験して、キズナリスト以外の力を得てきたんだろうね。

 できることなら、その力で共に戦ってほしい。

 君と目的は同じはずだ――僕たちは魔王復活を阻止して


 その言葉に、生徒たちの目つきが変わる。

 全員をまとめあげる魔法の言葉といったところか。


「その為には、魔王復活を企てている魔族を見つけ出し倒さなければならない。

 しかし僕たちは余りにも情報が少ない。

 話によれば、君は魔族とも戦ったそうじゃないか。

 君がいれば、僕たちは必ず魔族を倒すことができる。

 僕たちには君が必要だ」


 光本が手を差し伸ばしてくる。


「断る」


 俺がその手を握ることは無かった。

 光本は表情を崩さないまま、大きく息を吐いた。


「理由を、聞いてもいいかな」

「お前達の最大の武器はキズナリストだ。

 相乗効果でステータスも相当なものになってるだろう?

 それなら、連携を重視して複数人で戦えば魔族にも勝てる可能性がある。

 そこに不純物である俺が混ざる必要は無い。

 情報は渡す。お前達に必要なのは俺じゃなく情報だろ?

 目的が同じっていうのは正解だ。俺としても戦える人間が多いことは嬉しい限りだ。だからといって一緒に戦うことはない。

 そこは個々に動こう」

「……君は、元の世界には戻りたくないのかい?」

「それは、魔王復活を止めてから考えるよ」


 殺気が中庭に蔓延る。

 誰も口にしないが、座っているクラスメイトは全員俺に敵意を向けていた。

 心配そうにしてくれているのはヒヨリくらいである。


「紡車くんは、何のために魔王復活を止めるって言うんだ?」

「それがここに召喚された理由だからだ」


 そして、そのことに俺の希望などひとつもない。


「……わかった。なら、勝負してくれないか?」

「勝負?」


 唐突な提案に、俺は眉を顰める。

 光本は視線を逸らさず続ける。


「僕と勝負してくれ。

 君が勝ったら、素直に諦めよう。

 だけど僕が勝ったら、改めてクラスメイトの一員として共に戦ってくれ」

「下僕になれと?」

「違う、僕たちは仲間だ」


 光本の声音がまた冷たくなる。

 断ることは許されないらしい。

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