第272話 避けられない

「では、ここは我輩が審判をするとしよう」


 気を利かせてずっと黙っていた団長が前に出る。


「紡車」


 両木が俺の隣に来て耳打ちをしてきた。


「殺しは、なしだから」

「ん? それはもちろんだが」

「あのアビリティのことも黙っておくから、使わないでよ」


 絆喰らいのことだろう。両木とヒヨリだけは目の前で見てたからな。

 それを使うなとか殺すなとか、こいつは人のことをなんだと思っているのだろうか。


「二人とも武器は使うか? それとも魔法のみで戦うか?」

「僕は使わせていただくよ、どうやら魔法は簡単にきかないみたいだし」

「俺も武器はあった方がいいな」

「では両者に木剣を渡しておく」


 木剣を握り、光本と距離を取る。

 僅かだが、相手は殺気を放って警戒していた。よくもまあただの高校生が数ヶ月でああなれるものだな。


「はんっ! 紡車! お前にはコウキの攻撃は絶対避けられねえよ!」


 外野に回った藤原がヤジを飛ばしてくる。

 必中の魔法でもあるのだろうか。だとしても今の俺には魔法は効かないだろう。


「始め!」


 開始の声とともに俺は動いた。

 まずは様子見。一直線に向かって剣をつく。

 ステータスの俊敏性を活かした特攻だ。

 クロノスもこれで倒したし。

 ただ今回ははっきりと見えているので、


「安直だね」


 光本は綺麗に躱す

 いまの俺の攻撃は隙が大きいので、反撃しやすい場面だ。そこそこ戦闘能力の高いモンスターなら確実に狙ってくる。もちろんカウンターをお見舞いするが。

 反撃してこないのは相手も様子見か、もしくは経験が浅いか。想定内である。

 どちらにしても、ここだ。

 地面に手をつけると同時に身体を翻し、地を思い切り蹴る。

 連続での突進。


 光本は綺麗に躱す。

 同時に、右手で火球を放ってきた。結構な大きさだが、中級魔法か!


「くっぅ!?」


 様子見してくるかと思ったが、しっかりと反撃のタイミングも見ていたか。無駄のない返しだった。意外にも経験値は高そうだ。

 俺は体勢の悪いまま地面を蹴り上に飛んだ。

 狙われやすい状況、だが。


「土魔法、風魔法」


 空中に土煙を発生させる。視界を奪うことで狙えないようにする。


 俺は体勢の悪いまま地面を蹴り上に飛んだ。


「見えてるよ」

「っ!?」


 飛んだ先にもう一個火球が飛んできていた。

 避けられない!


「だが!」


 火球が俺に触れた途端、弾けるようにして消える。

 俺はそのまま地面に降りて光本の動きを注視する。


 自分の何がいけなかったのかまるでわからない。

 行動全て先読みされたかにように、見事な立ち振る舞いで火球を当てられた。もし無効化されなければ大ダメージだっただろう。

 光本の実力はそこまで伸びてるのか。


 魔法ではない読みなら、あっちが圧倒的に上か。


「紡車くん、悪いけど、僕の攻撃は避けられないんだ」


 光本が剣を構えた。


「次は、確実に仕留めるよ」


 両木さん、俺の方が殺されそうなんですが。

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