第273話 巻き戻し
とにかく、カラクリの追求は後回しにするとして、どうやって光本の攻撃を防ぐかだ。
「紡車くんは相当強いみたいだし、僕もあまり手を抜けるとは思えない。
大きな怪我をする前に、降参してもらいたいんだけど」
「いらんお世話だ」
俺は再び光本に向かって駆け出す。
一番危険なのは止まっていることだ。仕掛けられるよりは仕掛ける方がいい。
光本は動かず、木剣を構えてじっとこちらを見る。カウンター狙いか。
俺は自身の周辺に火球を発生させた。
これで近距離の攻撃はなくなる。
一定の距離を保ちつつ、魔法での攻撃を加えていくことで消耗戦に持っていこう。
俺は自身の周辺に火球を発生させた。
が、発動と同時に水魔法が飛んできたので、慌てて避ける。
光本がさわやかな笑みを浮かべている。俺が火球を発動させるのまで読めてたというのか。
今度は光本がこちらへと走ってくる。
木剣が振るわれるが、見切れないスピードじゃない。
俺はその攻撃を軽く避けると、そのわき腹に目掛けて腕を伸ばした。
剣――と見せかけて拳をお見舞いだ。
俺は攻撃を軽く避け――たつもりが、目の前に木剣が迫っていた。
「!?」
俺の反応よりも先に、突然身体が大きく揺れる。
まるで蛇にでもなったかのように世界がうねると、腰を木剣が掠めていった。
視界が一回転しつつ、すぐに光本を見据える。
そうなって、ようやく自身が何をされたか気づいた。
「巻き戻、された……?」
一度行ったはずの行動が再び起こされ、相手がひとつ先の手で動いている。
光本が読みの上手い人間だった、というわけではなかった。
掠めただけだが、攻撃を受けたことでその現象が認識できるみたいだ。
光本は、時間を巻き戻していた。
それがあいつのアビリティか。
「まさか、避けるとはね」
光本も驚いたらしく、目を見開いてこちらを見る。
あいつの木剣は当たってはいるが掠めた程度だ。
もし完全に巻き戻してやり直しがきくなら、こんな下手な当て方はしないだろう。
光本の未来改変をさらに上回る。直前での想定外の動き。
『ふははは! 当たるとのたまっていた攻撃が当たらなかった。なんと無様で滑稽なことよ!』
脳内に笑い声が響く。
光本の予想を上回る行動は、俺の影の中にいるマスグレイブによって起こされたものだったらしい。
「いたのか……」
『無論! 我輩のいなくなる理由がない!』
まあ、助かったら良しとしよう。
「そんな……コウキの攻撃が外れた……?」
クラスメイトがどよめく。いや当たったって。俺の腰のところ服裂けてるから。
「紡車くん、君が相当に強いことが証明されていくね。
もしかして今のでダンジョンのドラゴンも倒したのかい?」
光本が改めて木剣を構える。
ドラゴンの回避能力は俺に関係ないのだが、説明するのも難しいしなんかもういいやどうにでもなーれ。
「終わりにするか……」
そう呟いて、俺は光本に向かって腕を伸ばした。
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