第274話 予測可能回避不可能

「ちょっと、紡車!」

「あれじゃない」


 両木が何を感じたのか俺に声を掛けてきたので、短く反論しておく。


「つまり、お前はやり直しがきくから攻撃が絶対当たるって言いたいんだろ?」

「いまの攻撃でそれを理解してしまうんだね。恐ろしくなってきたよ」


 攻撃を受けた側が現象に気付いたということがなかったのだろうか。

 もしくは、この能力で一撃必殺を繰り返したか。

 まあ、魔族でもなければ細かな理屈に気付いて対策してくるとも思えないしな。


「なら、答えは簡単だ」


 火球をひとつ、光本の目の前に発現させる。

 光本はすぐに後退し警戒を高めた。


「不意打ち作戦かい? それでも僕には効かないよ」

「いや? 堂々と詰めるさ」


 ひとつ、またひとつ。

 火球の数を増やしていく。


「お、おい待てよ」

「火魔法って、そんなにたくさん発動できたっけ?」


 状況の違和感に気づいたクラスメイトたちから声が上がる。


「以前戦った時も、君は魔法の同時発動をしていたね……」

「光本、お前にとっては予測可能回避不可能ってところだな」


 元の世界にそんなワードがあったな。お笑い的意味合いだったけど。


 発現した火球は100を越えた。


「避けきれるならやってみろ」

「くっ!」


 光本の表情が歪むのと同時に、俺は全ての火球を光本に向けて放った。


「そこまで!」


 火球が光本に触れる直前で団長が叫ぶ。

 悟っていた俺はその声に合わせて魔法を止めた。


「……そういえば、勝敗の決し方を決めていなかった」


 おい。俺も忘れてたけど。


「僕の負けですよ。団長もそう思って止めたんでしょう?」

「コウキ殿……残念だがそのようにする。

 勝者はツムギ殿!」


 それを聞いて、全ての火球を消滅させる。

 中庭が静まり返っていた。


「じゃあ、俺はこれで」

「あ、待ってツムギくん」


 中庭を出ていくと、ヒヨリが小走りで横に並んだ。


「これからどうするの?」

「宿に戻るよ。何も置いてないけど、こっちに来てからずっと使ってるし」

「宿代勿体なくない? 私たちみたいにお城の客室借りようよ」

「いや、でも俺は一緒には――」

「ツムギ様」


 廊下の向こうから声を掛けてきたのは、エル王女だった。


「お久しぶりです。エル王女」

「お久しぶりです。先日は大変お世話になりました」

「何がご用が?」

「えっとですね……この子が」


 エル王女は困った様子で後ろを見る。

 そこには赤い頭巾を被った女の子がいた。


「ツムギ様、探しました……」


 女の子の目元は泣いたのか少し赤くなっており、俺の顔を見るや不安から解き放たれたような表情で歩いてくる。

 警戒した俺は一歩後ろに下がった。


「えっと……誰だっけ?」

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