第275話 情緒不安定

「え……」


 山吹色の髪をした少女は、その赤い目を見開く。


「あ、えっと、見た目変わっちゃいました。生え変わった、ん、ですよ。

 レイミア様のお屋敷で……オウカ、です」


 少女は不安の入り混じった声で自身の名を口にする。

 だが、その名前を聞いても、俺の頭の中で繋がるものはなかった。

 

「ごめん……数ヶ月前に王都で会ったとかだとちょっと記憶が曖昧で」

「オウカです! あなたの奴隷の! ソリーで買っていただいた!」


 今度は怒りにも近い大きな声。情緒不安定なのだろうか。

 しかも奴隷だという。確かに俺はソリーで奴隷を買おうとオークションに参加したが誰も買っていない。


◆オウカ ♀

 種族 :妖狐

 ジョブ:奴隷

 レベル:36

 HP :180/180

 MP :1080/1080

 攻撃力:360

 防御力:180

 敏捷性:720

 運命力:36


 アビリティ:夜目・燐火・言惑

 スキル:中級回復魔法・初級土魔法


「妖狐……?」

「ツムギくん下がって! エルも!」


 俺と同じタイミングで少女のステータスを見たのか、ヒヨリが俺と少女の間に立って警戒を強めた。


「どうして妖狐がここにいるの。

 エルを騙して入り込んだんだね」

「ち、違います! 私はツムギ様の奴隷で」

「そうですよ、ヒヨリ。この子はツムギ様の」

「エル、わたしの目を見て」


 ヒヨリとエル王女が見つめ合う。


「思い出して、騙されないで」

「え……あれ? 私は一体……そうですよね、ツムギ様に奴隷なんておりません」

「そ、そんな! 私は!」


 どうやらエル王女は妖狐族に騙されていたらしい。

 ヒヨリのアビリティはそういった魔法を解くものなのだろうか。

 どちらにせよ、俺の奴隷を名乗る少女は偽物だ。


「ツムギ様……」

「消えなさい、妖狐族。

 邪視の根源、誰か呪うつもり?

 それならここで倒すよ」


 ヒヨリの言葉に、少女は涙を浮かべながら後ろに下がり――逃げた。


「私、騎士団の方を呼んでまいります」

「エル、その必要はないよ。余計な混乱を招くだけだし、相手は小さな妖狐族。またすぐになんてことはないはず」

「ヒヨリの言う通りだな。あっちは勇者候補がステータスを覗けることを知らなかったんだろう。

 にしても、俺の名前はどこで知ったんだ……?」

「狙いはツムギくんみたいだね。なにか覚えはないの?」

「そうだな…………あ、邪視だ。

 邪視教と魔族が絡んでいるっぽいから、そこから情報が流れたのかも」

「ならあの子は今後もツムギくんを狙ってくるかも……。

 ねえ、やっぱりツムギくんも一緒に王城にいよ? 街で一人は危険だよ」

「うーん……考えさせてくれ」


 そう言って一旦王城を出たものの、なんと宿は火事でなくなっていたので、選択肢など最初からなかった。

 召喚されたばかりの頃と同じ、王城生活に戻ることとした。

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