第269話 弱腰ぼっち

「おお……」


 ヒヨリと中庭に入ると、赤い戦士がずらりと並んでいた。

 いや、まあクラスメイトが全員赤のパーカーを着てるだけなのだが……。


 バルバット団長を交えての会議っぽいな。たぶん昨日まで潜っていたダンジョンの反省会だろう。


「みんな、ツムギくん連れてきたよ」


 全員の視線が俺に集中する。


 おおう、なんか殺気まで見えてきそうな鋭さだ。全員面構えが違う。

 なにしたらこうなるの。


「ツムギ……?」「ほら、例の逃げた」「ああ、弱腰ぼっちの紡車か」


 なんかひどいお言葉が聞こえてきますが。

 まあ、そう思われるのは仕方ないのか。

 キズナリストという力がある以上、人類は団体行動が必須だ。

 いくらそれが苦手だとしても、一緒にいるというだけで力になる。ならば離れる理由がないのだ。

 

 しかし、俺の場合は例外。ステータスが下がるからね。

 だとしても一緒に闘うべきってやつのほうが多いだろう。数も大事な力だ。


「おー! ツムギ殿! 元気なお姿をまた見られて嬉しいぞ!」


 最初に近寄ってきたのは団長だった。

 大声で笑いながら俺の背中をバンバンと叩く。痛い。


「なんと今回は竜を見ただけでなく、倒したと言うではないか!

 我輩たちが合流した時には倒れていたので心配したが。

 出て行ってしまった時はどうしたものかと思ったが、いやはや強くなられたようで何より。

 さすがは勇者候補ということですな」


 団長の言葉に全員がざわつく。


「本当にドラゴン倒したのかぁ?」


 その中で、何人かの男子がにたりと笑みを浮かべながら問いかけてきた。

 明らかに、敵意や悪意の込められた顔である。


「俺たちが着いたときはドラゴンの影もなかったぞ?」

「そんなに大きい奴なら何かしら残るよなあ?」


 ドラゴンは絆喰らいで喰った。だから何かが残ることはない。

 男子がそう思うのも当然だろう。

 が、それに突っ掛かったのは両木だった。


「ちょっと、それは私とヒヨリが嘘をついてるっていうの?

 先に逃がしたみんなも見てる」

「お前たちが見たっていうのも、幻術か何かじゃねえの?」

「フィールドを見たでしょ。あれだけの傷跡、地下の時と同じ」

「あれだって結局紡車の言葉だけじゃねえか。

 あ、それとも、紡車のアビリティはそういう魔法で、お前たち全員騙されてるんじゃねえの?」

「は? ふざけた妄想しないで。彼にそんなアビリティはないわ」

「どうだろうなあ? 奴隷魔法とか持ってて、もうみんな堕とされてるんじゃねえの?」


 ゲラゲラと男子たちの笑い声があがり、両木が舌打ちをした。

 なにをそんなストレスマッハなのか知らないが、言い過ぎだろう。喧嘩になるか。


「いい加減にしろ」


 ぞっとするような冷たい声が響いた。

 男子も女子も、団長までもが黙り込み、声のしたほうを向く。


「僕たちは仲間なんだぞ。仲間を疑うようなことはするな」


 声の主は、光本だった。

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