第81話 レンタルリスト
「それって何の意味があるんですか?」
オウカが首を傾げる。
「大いに意味があります。無理にキズナリストの相手を探さずとも、金銭を用いて一時的な契約をするのです。誰でもいいから繋がりたいなんて安易な行動を起こさなくてもよくなります」
「そ、そうなんですねえ……」
クラビーが熱弁をするが、オウカはイマイチわかっていない様子。
俺はキズナリストを結べばステータスが下がるから、レンタルリストはありがたいシステムである。
しかし、本来のキズナリストの力を持つ者たちが必要かと言われれば、確かに怪しいかもしれない。
「オウカ、どうしても倒したいモンスターがいて、自分の力だけでは倒せないとしたら、どうする?」
「そうですね……仲間を集めます」
「だな。しかし、みんな他のクエストに行かなきゃいけないから手伝えないとしよう」
「それじゃあ、一人で……あ、いえ、キズナリストを結びます!」
「そうだ。キズナリストでステータスを上げる。ただ、知り合いと結ぶだけでは足りないとすれば」
「誰でもいいから契約してほしい……そこでお金ですか!」
「そういうことだ。まあ、冒険者が冒険者に依頼を出すようなものだ。キズナリストを結んでくださいってな」
お金を払ってでもキズナリストを結びたい相手となると、高ランクの冒険者になるだろうか。
高ランク冒険者は遠征が多いから滅多にギルドにいない、しかし、一定の期間キズナリストを結ぶ契約をすれば、遠征中にお小遣い稼ぎくらいはできそうだ。
しかし実際の需要はそれほどない。だからレンタルリストは浸透していないのだろう。俺もオウカも初耳だったし。
「それじゃあ、クラビーさんはどうしてツムギ様と契約を?」
確かに、強さを求めるならCランクの俺ではなく、Bランク以上を探すべきだ。
「いえ、今回私はギルドの昇格試験を受けたいのです」
そう言って彼女が机の上に置いたのはEランクと刻まれたギルドカード。
Dランクへの昇格試験を受けるには、キズナリストを一人以上と結んでいる必要がある。
なるほど、いまのランクでは稼ぎか厳しいから、上のランクに上がろうというわけだ。
「ツムギさんは昇格試験を受けるために奴隷を購入したと聞きました。
そういう方なら、キズナリストのいない私の気持ちを理解してくれるのではないかと」
クラビーが瞳をうるうるとさせて見つめてくる。どこでその話を聞いたんだ。見ればわかるか。
いや、俺だってステータスが上がるならぼっち冒険者していなかったよ。
……上がったとしてもぼっちだったかもしれないけど。
「まあ、結ぶだけならな。今日中に昇格試験を終えられるなら構わないぞ」
「ありがとうございます!」
クラビーがぺこぺこと何度も頭を下げてくる。
俺とオウカはクエストから帰ってきたばかりで今日はもうお休みの予定だったから、一日結ぶくらいなら構わないだろう。
「ツムギ様、ここは私が結びます!」
契約を交わそうと立ち上がったところで、オウカが声を上げた。
「奴隷の私ならステータスの影響もありませんし、彼女の本来の力で試験に挑めると思うんです」
内心では、俺のステータスが下がることを気にしてくれたのだろうか。
せっかくだから、オウカに甘えるとしよう。
「構わないか?」
「えっと……はい」
やはりそれなりのステータスアップも期待していたのだろうか。クラビーは少し眉尻を下げたが了承してくれた。
オウカとクラビーが向かい合いう。左手の甲を上にして前に出し、右手の指先を噛み切る。
甲の上に血を滑らせて、
「「愛と友の神ミトラスに誓い、ここに新たなる絆を欲する」」
血が手の中に消えていった。
彼女の首元の数字が増えた。
「ありがとうございます! さっそく昇格試験を受けてきます!」
そう言ってクラビーは受付へと走っていく。
まあこれで昇格できるならそれでいいし、その後彼女がクエストで苦労することになっても俺のあずかり知らぬところだ。
「じゃあ俺たちは帰るか」
「はい」
そうしてギルドを出ようとしたところ、
「ツムギちゃん~」
マティヴァさんがとてとてと小走りでやってきた。
「どうしました?」
「あのねあのねえ――きちゃったの」
突然何を言い出すんだこのお嬢さんはと驚く間に、マティヴァさんは
そして息を吹きかけるように小声で告げる。
「と・く・む」
わ、わぁい……。
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