第82話 アイテムボックス
◆特務クエスト◆
精霊の祠の確認、保護
内容:街の象徴である精霊の祠の位置にダンジョンが発生した。速やかにダンジョンを探索し、精霊の祠の状態を確認、保護せよ。
依頼主:冒険者ギルド ソリー支部
以上。
特務依頼に拒否権はない。
というわけで、黒いローブを羽織った俺。いつもの頭巾セットを着たオウカ。
それから、冒険初心者軽装備セットのクラビー。以上で森の中をを歩いていた。
曇天のせいか、いつもよりも不気味さの増した森。だがこの辺りはまだE,Dランクの冒険者が来る場所であるため、そんなに強いモンスターはでてこない。
「レンタルリストだけでなく、一緒に冒険もできるだなんて思っていませんでした」
クラビーが幸薄そうな雰囲気とは対照的に、明るい口調で話しかけてくる。
「昇格試験がダンジョン踏破で不安でしたが、ツムギさんたちが一緒なら安心です」
「なんか勘違いしてるが、俺らは一緒に戦わないからな?」
「ふぇ!?」
驚いたせいか、クラビーの背中で動いていた尾っぽがピンと伸びる。
俺とオウカの受けたクエスト先も、クラビーと同じダンジョンである。
ただし、目的は大きく違うし、彼女の昇格試験は彼女がクリアするものだから俺たちが手を出すつもりはない。
「せ、せっかく一緒なのに、ですか?」
「俺達は緊急のクエストを受けただけだ。目的地が一緒でもやることは違う」
「そんな……」
「ツムギ様、さすがに可哀想では……?」
「……まあでも、変なモンスターが出てきて死ぬなんてことがないようにくらいはしてやるよ」
「さすがツムギ様!」
「ツムギさん……!」
クラビーの顔がぱぁっと明るくなった。
別に放っておいても構わないのだが、特務に加えて彼女のダンジョン踏破を見届けてほしいという話も受けている。オウカが口を挟んだのもそれを聞いていたからだろう。
まあ、致し方ない。
***
森を進む中で、クラビーの様子がおかしくなった。
明らかに疲弊した様子で、ぜいぜいと肩で息をし始めたのだ。
「おい、どうした」
「いえ、なんか身体が重くて」
クラビーの冒険初心者装備は初心者向けと言っても、薄い籠手や肘あてがついているだけで防具なんてないようなものだ。それが原因ではないはず。
周囲を見回すが、特に魔法的な何かが発動しているとは思えない。俺とオウカには何も起きていないし。
「もしかしてお前……アイテムボックス積めすぎたな?」
「へ? アイテムボックスですか」
立ち止まってクラビーのアイテムボックスを開かせる。
短剣長剣回復薬
野営セット寝間着に枕
それから非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食非常食
「非常食多すぎ!」
「ええ、でも何かあると困りますし……アイテムボックスに何か問題があるんですか?」
「分からないのか? アイテムボックスは持ち運び便利な冒険者必須能力だが、その重量は身体に圧し掛かるんだぞ?」
「そ、そんなあ」
本当に知らなかったらしい。
アイテムボックスは便利な能力であるが、重さが異次元に飛んでいるわけではない。ただ、冒険者に見えない触れられない形で装備されているというだけだ。
まあ、なんでも入れられて重さもなければ、みんな商人になっているだろうよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます