第80話 クラビー

 シオンにオウカの生え変わり報告をした日から三日経った。

 オウカが持ってきたクエストは手軽なもので、今回は早めに街へと戻ってくることができた。


 ギルドへと入ると、相変わらずの賑わいを見せる。

 その中に、見覚えのない人物がいた。

 配膳係の正装である黒のワンピースに白のエプロンとメイドのような恰好。その姿でわたわたと危なっかしい動きをしながら食器を運ぶ少女。

 銀色の三つ編みに、その頭上には二つの猫耳。胸元には二つのたわわ。

 あれ? いや、どっかで見たな。


「あ、ツムギさん~」


 その少女がこちらに気付いて、食器を持ったまま寄ってくる。

 ――と、


「あっ」


 何もないところで躓く猫耳少女。

 空中を舞う食器。


「オウカ!」

「はい!」


 オウカと二人で落ちそうになる食器を掴んでいく。

 そのうちの一枚が床に伏せる直前の猫耳少女の上。


「邪魔!」

「ふげぇ!?」


 少女を蹴飛ばして皿を掴む。


「ふう、危なかった」

「一枚も落とさずに済んでよかったです」


 オウカと二人で、一仕事したかのように、ふぅと息を吐く。


「あ、ありがとうございます~」

「あ、ごめんつい」


 壁の方で、猫耳少女が目を回していた。


***


「クラビーはクラビーと申します。御覧のとおり猫人族です。

 最近まったく稼げていなくて、こちらでお手伝いをしていました……」


 テーブルの向かい側に座った猫耳少女――クラビーが、申し訳なさそうな感じで自己紹介をしてくれた。


◆クラビー

 種族 :猫人

 ジョブ:-

 レベル:20

 HP :200/200

 MP :100/100

 攻撃力:550

 防御力:200

 敏捷性:550

 運命力:20


 スキル:初級風魔法


 猫人族は攻撃力と俊敏性が高いみたいだ。

 この子に関しては、MPは一応あるものの、魔法が特別強いというわけでもない感じである。そういう人は多い。


 この世界では魔法を当たり前のように使える人の方が少ないらしい。

 たとえMPがあっても、魔法のスキルを持っていないという場合もある。

 キズナリストでMPは底上げできるが、そもそも使えないのなら関係がない。

 せいぜい、キズナ召喚に使うのがいいところだろう。

 代わりというのもおかしいが、アビリティを使う人の方が多く見かける、と言う場合もある。


「それで、俺に何の用だ?」

「あの……数日前にも言ったと思うのですが、レンタルリストを結んでほしいんです!」

「レンタルリスト……?」


 そういえば、この子が背中にぶつかってきたときに言っていた気がする。

 急だったのでちゃんと耳に入っていなかった。


「レンタルリストって何ですか?」


 俺と同じ疑問をオウカが口にする。


「キズナリストは信頼できる人と契約したほうがいい、というのが一般常識なのはご存知ですよね?」

「はい、変な人と結ぶと悪用されかねないですからね」

「ですが、ツムギさんやクラビーみたいに、キズナリストを結んでいない人も、極稀にいます。本当に極稀、というかほぼいませんが」


 クラビーは三つ編みを持ち上げると、首元には『00』という数字。

 俺と同じく、誰ともキズナリストを結んでいない。

 俺みたいにステータスが下がるわけでもなかろうに……いや俺は結べないんだよ? うん。

 キズナリストを結ばないなんてもの好きはこの世界にはいない。

 キズナリストは結ぶもの、というのがこの世界の人類の常識だからだ。


「そういう人は必ずどこかで、キズナリストがないことによる不遇を受けます」

「ギルドの昇格試験もそうだったな」

「そうです、ギルドの昇格試験です」


 クラビーが机の上にマティヴァ級の胸を乗せて、ぐっと顔を近づけてくる。


「そういう、どうしてもキズナリストが必要な時に、一時的な契約としてレンタルリストがあるんです」

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