特務-精霊保護-(西の森ダンジョン)
第79話 異界の眼
「は、どいうことだ?」
「どうもこうも、そういうことでしょ?」
シオンの言っていることが理解できず聞き返すが、彼女も俺の問いを汲めずにか首を傾げる。
魔族が空想の生物?
つまり、実在しないとでもいうのか?
「で、でも、私たちは実際に戦ったんですよ?」
オウカの言う通り、俺たちはアンセロという魔族と戦った。
さらに、謎の魔族とも接触をしている。
しかし――
「……どうやって魔族だってわかるのよ?」
「そ――」
シオンの言葉に反射的に返そうとして、咄嗟に口を噤んだ。
代わりに質問を投げかけた。
「一つ聞きたい。この世界は誰もが自分のステータスを覗くことができる。
なら、逆にだ、相手のステータスを覗くスキルやアビリティはあるのか?」
「うーん? あるんじゃないかしら? 聞いたこともないけど」
つまり、だ。
この世界にはステータスという概念がある。
生きるものはすべてステータスを持ち、自身のそれを見ることができる。
しかし、相手のステータスを見ることができない。
無意識に、自分の目元に触れていた。
アビリティ「異界の眼」は相手のステータスを覗ける。
薄々気づいてはいたが、「異界」と書かれているのは、俺が別の世界から召喚された人間だからだろう。
魔族のアンセロも言っていた。『あなた様は見えるようですね』と。
マティヴァさんも聞いてきた。『そのモンスターは喋ったのね』と。
本来は見えないのだ。相手の種族も、ステータスも。
そしてモンスターは人の言葉を話さない。
故に――相手が魔族だと知る術はない。
異界の眼の存在を告げるべきか?
それは同時に、自分が召喚された身だとばらすことになる。
……ばらして大丈夫なのか?
勇者候補はどこまで知られている?
世界での立ち位置はどこにある?
そもそも、魔族や魔王の情報はどこまで知れ渡っている?
いまは俺の情報量が不足している。
「……王国では魔族を倒そうと動いている話を聞いたんだが」
探るように言葉を紡ぐ。
「ああ、エル第三王女ね。
騎士団の忠誠は高いらしいけど、国民の間じゃ「妄言姫」って呼ばれてるわよ」
そういうことか。
ダンジョンで遭遇した謎の魔族の言葉が脳裏をよぎる。
『人類が我々に辿り着くことがなくなった』
この世界の人類は、自分たちの危機すら把握できていないわけだ。
***
結局、シオンには適当なことを言って「魔族と戦ったというのは勘違いだった」ということにした。
「いいんですか? ツムギ様」
「ああ、オウカも魔族については黙っていてくれ」
マティヴァさんにお願いしてギルドの報告書も読ませてもらった。
俺の昇格試験の報告書には魔族という言葉がひとつも書かれていなかった。
「魔族なんているわけないものねえ。でも、モンスターが喋るなら、新しい発見だよ。是非同じモンスターを見つけて、捕まえてほしいなあ」
マティヴァさんからは、そんな回答が返ってきた。
やはり、誰も魔族がいることを知らない、認めていない。
「さて、どうしたものか」
今後の方向性について悩みながらギルドを出ようとすると――
「すみません!」
ドンと背中に何かがぶつかってきた。
振り返ると、銀色に近い髪を三つ編みにして肩に乗せた、町娘みたいな恰好の女の子がいた。
頭の上には三角の耳が二つ。猫人族か。
猫耳少女が顔を上げ、縋るような表情でライムグリーンの瞳を向けてきた。
「クラビーと、レンタルリストを結んでくれませんか?」
「いや、これからクエストいくんで」
断った。
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