第122話 さっぱりわからん
「回復魔法と呼ばれる魔法が、実際には何をしてるかって話だ」
「何を? 回復ではないんですか?」
「結果としてはそうなんだが、この話は過程の方だな」
オウカとクラビーの疑問符が消えないので、実演してみるか。
俺はアイテムボックスからナイフを取り出して手の甲を刺す。
驚いたのはハインゲルさんだけだった。
続けて回復薬を取り出して刺した箇所にかける。
ハインゲルさんの顔がさらに歪んだ。
手の甲から少し煙がでると、傷口はすっかりなくなる。
「回復薬は名前の通り回復を行う。細胞の活性化とかかな。
だからなのかわからないけど、回復の際には痛みが伴う」
「ツムギさんの言い方だと、ちょっと沁みるよ程度にしか聞こえないです」
クラビーがブルブルと身体を震わせる。何やら良くない思い出でもあるのだろうか。
「対照的に、回復魔法は痛みを伴わない。この違いが何かと考えると、回復魔法は回復以外の働きをしてるんじゃないかって考えたんだが」
「しかし、時間を巻き戻しているなら、その間の痛みも戻される可能性があるんじゃ。その痛みは回復薬の比ではない」
「だから他の原理を考えたんだが。
専門家がこう言ってるし、さっぱりわからん」
教会に所属する回復魔法使いの一部は日頃回復魔法の研究を行っているらしい。
その一人であるハインゲルさんの意見なのだから、素人が変な反論をするものでもないだろう。
「それと、回復薬の激痛はな……いや、なんでもない」
ハインゲルさんが何かを言おうとして止める。何か隠してるっぽいが……まあ追及することでもないか。
「なんとかクラビーの目を戻せないかと思ったんだが……変な期待させて悪かったな」
「そんなことないです! ツムギさんがクラビーの為にいろいろ考えてくれていただけでも嬉しいです!」
それに、とクラビーが続ける。
「ダンジョンでも言いましたが、この怪我はクラビーの責任なんです。
クラビーが未熟だったから、クラビーが弱かったから……それだけなんですよ」
冷静なようで、ひたすら冷たく、自身を突き放すかのような声音。
クラビーは自分自身に呆れのようなものを抱いているのかもしれない。
そう思ったのは、自分にも似たような経験があるからだろうか。
数か月前、ダンジョンに閉じ込められた無力な自分と、どこか重ねてしまいそうになる。
「クラビー、これからお前が生きていく上で、視覚とはお別れをしないといけない」
「はい」
「今まで以上に生きるのが大変だ。
それでも――生きたいと強く願えるか?」
俺は問う。
クラビーが答える。
「生きますよ――クラビーの命は、まだここにあるんですから」
クラビーが自身の胸に手を添える。
「そうか。
それじゃあ、これは俺からのプレゼントだ」
アビリティ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます