第121話 疑問符

 おじさんが困ったと言わんばかりに、大きく息をついた。


「ギルドマスターには様々な権限がある。

 だから早めに次を決めないと精霊の加護や、ギルドの運営にも支障が出るな」

「おじさんは無理なのか?」

「俺は騎士団に所属しているから無理だ。

 それを言うならお前が……ぼっちじゃなあ」


 人の首元を見てため息をつくとは失礼な。

 まあ事実ぼっちなので仕方がない。


「実力だけなら申し分ない。実際お前はCランクの域を超えている。

 だが、ギルドマスターってのは強さだけじゃない。人をまとめる力やリーダーシップの素質も問われるんだ」

「いや、そんなことはわかってる。俺には無理だし、頼まれたってやる気はない」

「早急にギルド本部へ連絡するしかないな」

「本部って……王都か」

「そうだな。俺の方で準備を進めておこう」


 ギルマスが決まらない限りは話が進まない、ということらしい。

 最終意思決定をする人がいないというのも大変なことだ。


 話をまとめ、諸問題については王国騎士団に任せることにした。

 戦いに携わったからと言って、特別な発言権がつくわけでもないし、こうした問題は現地のベテランに頼るに限る。


***


 次に向かったのは教会だ。

 教会は回復魔法使いを抱えているだけあって、療養室も存在している。

 その一室を借りて、念のためにクラビーを見てもらっているのだ。


「クラビー、調子はどうだ」

「ツムギさんですか? 身体の方は大丈夫ですよ」


 少し強めのノックをして扉を開くと、目元を布で覆われたクラビーがこちらへと振り向いた。

 病衣を纏っているが、ベッドから体を起こしているあたり、体調はそんなに悪くなさそうだ。

 ベッドの隣には白衣を着た男。整えられた口髭と皴の多さで、その姿にはどことなく威厳がある。


「先生、お話し中でしたか」

「先生というのはやめたまえ、儂は何もしてないのだから」


 この人がクラビーを担当してくれているのだが、元の世界の感覚で「先生」と勝手に呼んでいる。そんな呼び方をする人は他にいないが。


「じゃあ、ハイルゲルさん。クラビーの調子はどうですか」

「うむ、体調の方は何も問題ない。

 ただ、やはり目の方は戻せそうにないな」

「上級回復魔法でも無理ですか……回復魔法は時間に作用していると思ったんですけどね」

「その考えは非常に興味深かった。何せ回復ではなく、復元であるなら研究に大きく進歩をもたらす可能性があるからな」

「あ、あのツムギさん、ハイルゲルさん? 何の話だかクラビーさっぱりですよ?」

「私もですツムギ様……」


 女性陣が首を傾げながら頭の上に疑問符を浮かべていた。

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