第221話 不審者

 街をしばらく歩き、王城前を下っていくと、街の中央に冒険者ギルドがある。

 レンガ調のギルドは三階建てほどの大きさがあり、さらにてっぺんには監視塔がついている。

 あそこから、王国の後ろにそびえ立つダンジョンを監視しているらしい。

 まあ、監視できるのは上だけで、地下のほうはどうしようもないのだが。

 ギルドの入り口は人が行き来しやすいように大きく、扉は常に全開である。

 それでも、最初の頃は本当に入っていいのか分からなくて、入り口の前でうろうろしたものだ。まあ、その時にマティヴァさんに助けられたのだが。


 ギルドへと入ると、手前には大きな掲示板が掲げられている。

 王都だけあって、その数は尋常じゃない。全部読んでいるだけで一日潰せそうなくらいだ。

 そういう膨大な数があるせいで、ソリーのギルドみたいに個別に適したクエストを用意してくれたりもしない。自分の強さを弁えていない奴から死んでいくシステムである。

 まだ塔の日刻午前九時前ということもあってか、掲示板の前は人だかりができている。

 本来なら俺もここで探さないといけないのだが、スルー。


 とりあえずマティヴァさんに会おうと思う。運が良ければ何か急ぎにクエストがあるかもしれないし。

 なくても、マティヴァさんには妖狐や魔族に関われそうなクエストを探してもらえるようお願いする予定だ。

 妖狐に関しては俺の持っている情報を提供しつつ、関係ありそうな地域のクエストを。魔族に関しては、ここ以外でも活動している可能性があるから、変なクエストや情報が曖昧なものを探してもらおう。

 特に、問題解決のための情報収集系クエストならば、その問題が魔族絡みの可能性もある。まあ、外れの方がほとんどだろうが。


 それに、宿暮らしが続いているためお金ミトラスを稼がなければならない。未だに二部屋借りている。片方は俺が使い、もう片方をあれとシオンが使っている。

 シオンは勝手に責任を感じていろいろ教えているらしい。基本的には作法とからしいが、オウカのことだけは喋るなと口酸っぱく言っておいた。

 一応、護衛の依頼でもらった手形は俺が持っているが、放棄した護衛の報酬を使うわけにもいかないので手を付けていない。だから生活費に加えて学費も自腹です。学ぶってお金がかかるね……。


 ギルドの受付はクエスト受発注用と、その他インフォメーションといった感じに分かれている。なので後者の方に赴き、立っていた女性にマティヴァさんがいるか尋ねた。


「マティヴァ……ですか? 少々お待ちくださいませ」


 少し困惑した表情で受付嬢が裏へと行ってしまう。お休みだろうか。

 ソリーではこちらに異動するみたいなことを言っていた気がするが。

 あ、でもあのとき結婚がどうこうとも言っていたな。無縁だと思っていたが、いつの間にやらレイミアに求婚されてるし、人生何があるかわからないものだ。

 あの時は軽い雑談程度で終えてしまったが、次は少し真面目に相談してみるのもいいかもしれない。


 と、奥から受付嬢とは違う女の人が出てきた。

 見た目がアマゾネスと言いたくなるような筋肉美の女性だ。受付嬢と同じメイド的な服装なのに二の腕とかの張り具合が違うし、胸元も谷間じゃなくて胸筋がちらり。

 オレンジ色の髪を掻き上げた額には切り傷のようなものもある。元冒険者なのかもしれない。

 そして、変な奴が来た時に対処する係なのかもしれない。俺は不審者だったのか。

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