第169話 小汚い手段
***
どうしてこうなった!?
シオンは頭の中でそう叫んだ。
両腕両足は縄で縛られ、口はテープで塞がれている。
身動き一つできない状態に、しかし混乱だけはしまいと必死に脳を回転させていた。
ツムギが魔法師団の男と話すからと、シオンを先に教室へ向かわせた。
先日の王女との関わりに続き、今度は魔法師団ときた。
それ自体についてシオンはもう諦めがついている。聞かないと答えないし、聞いても答えない男だと。
なので、彼女は口を尖らせはしても、素直に教室に向かったのだ。
ツムギがシオンから離れたわずかな時間であった。
そこを狙われた。
やけに人気のない廊下だと感じた時には、後ろから口を覆われ、腕の動きを封じられた。
彼女の目に映ったのは、昨晩宿を襲撃した仮面の人形。
三人がかりでシオンに縄をかけて、そのまま窓から連れ出したのである。
(屋根伝いだったけど、たぶんスラム街よね、ここ)
現在シオンが閉じ込められた部屋は、寂れた椅子や机が置かれ、窓もひびが入っている廃屋である。
扉もない入口から、今度は仮面でない男が三人はいってきた。
「すげえ、本当に攫ってきちゃったよ」
腹の大きな男がシオンを見て舌なめずりをする。
「命令の込められた魔力を入れるだけで動く魔道具――
いいものをよこしてくれたな」
「へへ、ありがとうございやす兄貴」
リーダー格と思われる、茶髪をオールバックにした男が隣にいる男の肩を叩く。
叩かれた男は、鼻先まで伸ばした苔色の髪を揺らしながら手を揉んでいた。
人の顔を覚えるのには自信のあったシオンだが、目の前の男たちは記憶になかった。
しかし、全員が紫色のパーカーを着ていることからGクラスの人であることはすぐに理解した。
苔色髪の男がシオンに近づき、口のテープを剥がす。
茶髪の男が口を開いた。
「よぉ、Cクラス様よ」
「……目的はなに?」
「いきなり本題とはつまんねえな……まあいい。
俺の目的は黒ローブの男……あいつには今度の昇格試験を降りてもらう」
ツムギのことだろうとはなんとなく察せた。
「昇格試験は各クラスの模擬戦で一位を取ったものだけが受けられるのは、お前も知っているだろ?」
「初耳ね。あたしはそんな試験興味ないから。
それとあたしが攫われることがどう繋がるのかしら?」
「黒ローブは王女の付き人だっていうじゃねえか。そんなのがなんでGクラスにいるのか知らねえけどよ。邪魔なんだわ」
「つまり、自分が昇格試験を受けるために、強そうな人を排除したい。
だからこんな小汚い手段で蹴り落とそうってわけね」
「黙れよ」
茶髪の男が、シオンの髪を持ち上げる。
痛みに彼女の表情が歪む。
その頬に男が何かを当てた。
赤い石。先の尖ったそれはシオンの頬に線をいれ、血を垂らす。
「次ナメたこと言ったら殺すからな」
「……」
彼女は黙るも、瞳で男を睨みつける。
無力ながらも必至な抵抗の姿に満足したのか、男は鼻で笑うとシオンの髪から手を離した。
「次は、奴との交渉だな。
お前は当分ここで待っていてもらう。
もし奴が逆らうときは――お楽しみといこうか」
そこで、ゲップに近い笑い声をあげたのは、デブの男だった。
シオンの全身に嫌悪感が奔る。
「じゃあ兄貴、あっしが見張りをするんで、あとはお願いしますぜ」
「分かってるよ。ほんとお前はいいものをよこしてくれるよなあ」
茶髪とデブの二人が出ていき、部屋の中にはシオンと苔色髪の男だけが残された。
ふぅ――と、男が息を吐くと、前髪を撫で、綺麗な七三分けにした。
髪の奥には開けているのかも分からないつり目があり、それがシオンを見つめる。
「さて、やっと少しばかり時間ができた。俺様の質問に答えてもらうよ」
先ほどとは、口調も声のトーンも違う。
その異様さに、シオンは思わず息を呑んだ。
シオンを見下ろした男が、問う。
「ソリーで、妖狐を見なかったか?」
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