第291話 王都ダンジョン

 王都ダンジョン。

 とは呼ばれているものの、ダンジョンそのものは王都が生まれるよりも前から存在するらしい。


 ダンジョンを探索するために冒険者がキャンプを設置し、ギルド出張所、商店と主に探索者を中心に人が増えていったそうだ。

 初代国王も冒険者の一人。というか魔王を倒した勇者一行の一人らしい。

 エル王女が俺たちを信用し、そして手厚く援助してくれているのは、自分がそういう血筋なのもあるからだろう。


 それはさておき。


 古くから存在するダンジョンは、外から見れば空に向かって高くそびえ立っており、知らない人は層楼型のぼるタイプだと思うだろう。

 それは半分だけ正解だ。

 実際に入ると、最初にぶつかるのが上への階段と、下への穴。

 このダンジョンは地楼型下るタイプも備わった二重形態の特殊なダンジジョンだ。


「だから僕たちは二手に分かれて、効率よくダンジョンの攻略を狙ったんだ」


 光本が前回の探索の経緯を説明してくれた。


「紡車くんほどでないにしろ、僕たちのレベルもこの世界の同年代よりは高い。

 冒険者ギルドに登録した人たちの中にも、Aランクになった奴がいる」

「そりゃすげえな。俺なんてまだCランクなのに」

「レベルとキズナリストの数で、ある程度のモンスターは倒せてしまうからね。

 実績を積み上げるだけなら簡単さ。

 だけど、その簡単さが仇になったと昨日自覚したよ」

「経験の乏しさだな」


 強すぎるが故に、敵をあっさりと倒せてしまう。

 魔法一発で倒せるなんて環境で戦い方が学べるわけでもなく、結果、ドラゴンを目の前にして委縮するという残念な有様になってしまった。

 モンスターは本能で動く、俺たちが知識で動く。


「魔法に頼りきりになれば、思考が鈍る。魔族は俺たちと同じく知識で戦う。

 早いうちに全員の意識を改めないと死人が出るぞ」

「分かっている。それで、ダンジョンの最下層までいけば、それなりに強い相手がいると思ったんだけど……」


 全員でダンジョンを見渡す。

 俺たちが歩いているのは地下45階層。ヒヨリたちがルースと遭遇した場所だ。


「ね、わたしたちが言った通り、モンスターなんて全然いないでしょ!?」


 ヒヨリが両手をぶんぶんと振る。


 彼女たちは約1ヵ月かけてダンジョンに潜り続けたが、モンスターに遭遇することはほとんどなかったという。


「あんな、ご飯も、お風呂も、トイレも我慢したのに……成果なしってね……ふふ」

「ヒヨリさん? なんか目が死にかけてますよ?」


 ご飯は携帯食、お風呂は水魔法でカバー。トイレは過去の転移者たちが発明したであろう無音無臭化簡易トイレが冒険者ギルド商店にて銀貨2枚で販売中。ちと高いわ。


「だがモンスターがいないというのもおかしいな。

 半年くらい前は騎士団がさぼってたおかげでモンスターが多いと聞いたが」

「騎士団の皆さんもさぼっていたわけじゃないんだけどね……。

 でも、モンスターが居ない原因が分かっている」


 光本が、はっきりとした口調で告げた。


「紡車くん、君が原因だよ」

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