第292話 恩恵

 ワッツ?


「君が原因でモンスターが消えた……って言ったら、どうする?」


 光本が笑みを浮かべる。

 とりあえず一発殴ったらいいのかな。いやそんな暴力的なことはしないが。


「なんで俺が原因になる?

 半年も王都を離れてたのに」

「いや、発端はそれよりも前さ。

 君が、地下に閉じ込められた時だよ」


 嫌な記憶の話がでてきたな。


「そう嫌そうな顔をしないでくれよ。何も責めているわけじゃないんだ。

 ただ君のレベルの高さと関わりがあると思ってね」

「俺のレベルか。

 まあ、聞いてやるよ」

「約半年前、君が地下に閉じ込められた時、僕たちはダンジョンに初めて潜った。

 その時は六階層まで進んだんだけど、モンスターは結構いたんだ。

 それが、ここ最近は全くと言っていいほど見掛けない」

「他の冒険者がダンジョンを進めている可能性もあるだろ? 出入りは自由なんだし」

「それはないんだ。ギルドではダンジョン外にでてきたモンスターの討伐依頼と、ダンジョン攻略の依頼しか出ていない、ってのは流石に知っているかな」

「ああ、ダンジョンの攻略は完全踏破が条件だし、大抵は大型パーティを組んで行くものだ。

 なるほど、王都だとそれをするのは騎士団の仕事になっている。冒険者は外のモンスターを討伐するか、あるいはレベル上げのためにしかダンジョンに入らないか」

「うん。だから騎士団が動かない限りはモンスターがいなくなるなんていうことはほぼありえないし、奥へ進めば尚更さ」


 その騎士団が放置していたおかげでモンスターがうじゃうじゃいたはずなのだ。

 ならば、どこへ消えたのか。

 ものすごい実力の冒険者がひっそりと攻略してるなんてことはないだろう。


「紡車くんが閉じ込められた場所の傷跡とドラゴンの存在、それがモンスターのいなくなった原因だと思うんだ」

「つまり、ドラゴンが来てモンスターを食い荒らしたからいなくなった。

 俺は近くにいた恩恵でレベルが上がった、ってことか」

「何日も地下に閉じ込めらていたんだ。

 もしダンジョンにいたモンスターの経験値をほとんど得ていたなら、君の今の強さにも納得だよ」


 なるほど、だいたい外れている。

 というのも仕方が無い。地下での一件は絆喰らいを知っていなければ始まらないからな。


 俺は地下に閉じ込められてドラゴンと遭遇したあと意識を失ったが、その後も絆喰らいが単独で動きモンスターを喰らったんだと思う。


 いまステータスにあるのはルースとダアトと、あともう一つは知らないソ・リーというモンスター。

 スキルに精霊魔法とかあるし精霊関係のモンスターなのだろう。

 そうしたステータスを奪う喰らいではなく、物理的に喰らったようだが……まあそれでも経験値として入り、短期間で異常なレベルとなった。


 でも半年で40レベまで行ってるこいつらもやばない?


「わかった。それで今回はこんな少人数で下に来たのか」

「ヒヨリの言った通りモンスターはほとんどいないからね。できればこのメンバーを中心にレベルを上げたいんだ」

「パーティを組めば経験値が分散されるからな。

 クラス全員で分けるとなると厳しいところがあるな」

「それに、魔族と戦うのは何も全員じゃないからね。アビリティが戦闘向きじゃない人もいるし。

 だけど僕たちがレベルをあげればみんなにはキズナリストで恩恵がある」


 キズナリスト恩恵様様。

 にしても色々考えてるんだな。


「さあ、46階に降りよう。

 ドラゴンのせいでここから先はまだ見てないみたいだから、一応気をつけてね」

「まあさっきの話からすれば、ドラゴンクラスでないとモンスターはいなんだろうな」


 奥に下へと続く穴を見つけ一人ずつ降りる。

 46階層も他と変わらず暗い。

 すぐに誰かが光明石に魔力を注いだ。


「ぁ」


 誰かの声が天井に響いて、全員が上を見上げる。


 照らされた46階層には、太い糸が張り巡らされていた。


「ѨѨѨѨѨѨѨѨѨ!!」


 八つの目と目が合った。

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