第293話 蜘蛛

 青紫色の丸い背中に目玉が八つ。

 八本の脚が蠢き、一言で言えばそれは蜘蛛だった。


◆セロピギー

 種族 :アラクネ

 レベル:460

 HP :8740/8740

 MP :11040/11040

 攻撃力:6900

 防御力:10580

 敏捷性:10120


 アビリティ:絲命・眼石・鎌斬

 スキル:上級地魔法


「う、うわあああ!」

「あ、おいまて!」

「アビリティ――魔砲スフレイト!」


 藤原が敵に驚いて拳から魔法を放ってしまった。

 魔法の塊が蜘蛛の八つの目の一つに当たる。


「やったぞッ!」

「いや、悪手だ」


 次の瞬間、


『ѨѨЁЁЁЁЁЁЁЁ―――――! !!』


 蜘蛛の悲鳴が上がる。

 目は潰れている。

 しかしそれがすぐに再生すると八つの目がぐるぐると体の表面を回り始めた。


「効いてない!?」

「てか気持ち悪い!? なにあれツムギくん!」

「ハズレを引いたんだ。

 距離を取るぞ、全員固まったまま移動だ!」


 みんなに指示をだして駆け出す。

 ダンジョン内はセロピギーの糸が張り巡らされていて移動範囲を狭められている。

 厄介だな。


「紡車! さっきのはどういうことか分かるのか!?」

「セロピギーの目に見えるのは模様だ。

 ひとつが本物の魔石で、残りが偽物。

 本物を壊さない限り倒せない」

「じゃあ俺が当てたのは偽物だったのか!」

「ああ、しかもそれで敵と判断された。

 本来あのモンスターは臆病だから攻撃してこないのを藤原ぁ!」

「悪かったよキレんなよ!?」


 ダンジョン内を走る俺たちの上を、蜘蛛が糸に足を引っ掛けながら追いかけてくる。


「よし、みんな剣を持て!」

「魔法じゃだめなのかい?」

「もう手遅れだから放ってみろ」


 光本が火魔法を放つ。結構な大きさだ。威力も相当なはず。


 だが、


「なっ!?」


 セロピギーの脚にぶつかった火はたちまち分散し、張り巡らされた糸を通って壁にぶつかった。


「あいつの特性は魔法の攻撃を糸に逸らして回避することだ。

 単純な魔法じゃ絶対に倒せない。

 まあ、目みたいな模様に当たれば有効だが」

「アビリティに出ているのがそれなのかい?」

「いや、あれは糸そのものの特性だ。アビリティとスキルだけで判断していると生き物そのものの特性に殺されるぞ」

「き、気を付けるよ……。

 しかし、それで剣といってもあの高さは」

「まあ見てろ」


 俺はアイテムボックスから取り出した両手剣を握ると、スピードを上げ壁に向かって駆け出す。

 蜘蛛に照準を合わせ、膝を曲げ、壁をスタートブロック変わりに――跳んだ。


「おらぁ!」


 二連撃。蜘蛛の目を二つ落とした。


「す、すげえ……」

「ち、外した」


 藤原が口を開けて驚いている間にも、反撃の糸が飛んでくる。

 剣で防ぐも、糸はまるで自我でもあるかのように蠢き剣を絡めとった。慌てて手を離して地面に降りる。


「武器全部取られたら負けだな」

「おい紡車! モンスターのこと知ってたなら、なにか対策も知ってるんだろ!?」

「あの目みたいな模様八つを同時に刺せば倒せるぞ」

「無茶言うなよ!?」


 しかしあの模様にだけは魔法が有効だ。藤原の一発目が当たったのもそのせいだし。


「いや、同時か。火魔法同時にぶつけたら倒せるかな」

「それは紡車くんしかできないけど、いけるのかい?」

「いや、あれ実は数を増やすと威力弱まるんだ」


 言っていると、袖を引っ張られた。

 見ればヒヨリが真面目な顔で俺を見つめていた。


「ツムギくん、あんまりMPないんだから、無茶しないで」

「魔力は……そうだな」


 ルースは魔力なかったから喰らっても恩恵がなかったんだよな。

 いや、まてよ。


「足りればいいな」

「みんな上から糸が来る!」


 両木の六眼エーデルアイズで糸の攻撃を察知したメンバーはすぐさま動いて糸を避ける。

 その時には、自分が笑みを浮かべていることに気が付いてしまった。


「みんな攻撃を避けながら聞いてくれ」

「無茶しか言わないなお前!?」

「藤原はもっと敵を見ろ。

 それで、ものは相談だが――誰かひとり犠牲になってくれ」

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