第294話 炎の剣
「犠牲ぃ!? ふざけんなよ紡車!」
叫ぶ藤原の上を飛び越え、彼に迫ってきていた糸を剣で抑える。さらに一本減ってしまった。
「言い方が悪かったな。一人俺に協力してくれ。
ただ、これを使うとあとで大変だと思うから」
「わかった、私が手伝う」
手を挙げたのは両木だった。
「よし、じゃあ他の人はあの蜘蛛を引き付けておいてくれ。
ヘイトが俺のままじゃやれない」
「わかったよ」
光本、ヒヨリがセロピギーに向かって魔法を放つ。
光本が連続で二発、ヒヨリが一発しか撃てない上に敵は見事避けるので倒せないが、時間稼ぎにはなる。
「よし、両木いくぞ」
「え、ちょっと、あっ」
両木の膝裏を掬いお姫様抱っこして岩陰に移動。
俺のアビリティが最小限の動きで済むように、両木を壁の前に立たせる。
「どうなるか聞いておくか?」
「急に犯罪臭がしてきたから、一応……でも、どうせあの魔法でしょ」
「ああ、いまからお前のフレンドリストを奪う」
アビリティ――絆喰らい‐
俺の影から絆喰らいが伸びて両木の身体を通過する。
右腕が黒く染まり、手の甲に表示された数字は30。
◆ツムギ ♂
種族 :人間
ジョブ:魔法師
レベル:60
HP :123783/123783
MP :12322/12322
攻撃力:69241
防御力:180956
敏捷性:178919
運命力:1107
暴食:30
「よし!」
俺は地を蹴り一気にセロピギーとの距離を詰める。
「全員どいてろ!」
「ツムギくん! 糸が!」
ヒヨリの声とともに、蜘蛛の糸が俺の四肢と首に巻き付いてきた。
そして首に巻き付けられた糸を辿ってセロピギーが迫ってくる。
八つの目が並んだ背中の中央がグパリと開く。そこが口か。
「食べられちゃう!?」
「紡車くん!」
「光本、アビリティは使うなよ!」
動けなくしただけじゃ止められないのが、魔法ってもんだぜ。
スキル――上級火魔法。
俺の周囲に火球が八つ現れる。
さらに形状を変えていく。
「火魔法が剣の形に!? そんなことまでできるのか」
光本が驚いているが今は無視。
セロピギーが避けられない位置まで近づくのを見計らい――
「――行け!」
炎の剣を放つ。
セロピギーが一瞬動きを止めるが遅い!
剣が八つの目すべてに命中した。
パキリ、と魔石の割れる音がダンジョン内に響く。
『――ス』
「?」
セロピギーの身体が糸から離れ落下していく。
俺に絡まっていた糸も力を失ったように柔らかくなり、俺も地面に降り立った。
「すごいよツムギくん! ひとりで倒しちゃうなんて!」
ヒヨリがすぐに駆けつけてきて俺に抱き着く。
「いやこれこそみんなの――キズナリストのおかげだよ」
俺の腕からは既に文字が消えている。あまり見せたくないものではあたのですぐに解除したのだ。
「セツナは?」
「大丈夫」
両木が奥の岩陰から出てくる。
「なるほど。それで後が大変ってわけ」
両木の首元の数字は0になっていた。
「すまない、そういう魔法なんだ」
「わかってる……味方でいるうちは心強い能力ね」
俺がいつ敵になるっていうんだ。
「さて、光本、このまま奥に進むか?
ここでモンスターが出てきたってことは、奥にはまだいるかもしれないぞ?」
「……いや進もう、これくらいで戻っていたらダメだと思うんだ」
全員頷く。満場一致で奥に進むこととなった。
「…………」
「どうしたのツムギくん?」
全員が進む後ろで俺がダンジョンを見渡していると、ヒヨリが隣で声を掛けてきた。
「……いや、なんでもない」
「そう? 気になることがあるなら何でも言ってね」
気になることは――ある。
セロピギーを倒した時、聞き間違いかもしれないが。
あの蜘蛛は、俺たちの理解できる言葉を離したように聞こえた。
モンスターが言葉を話すなんてこと、あるのだろうか。
妙な違和感を抱きながら、俺もみんなについていった。
***
進み続けた結果、ダンジョンは50階が最終地点であることが判明した。
そこまでモンスターに遭遇することもないまま、俺たちは王都ダンジョンの半分を踏破したのであった。
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