第五章 魔族決戦

地下の謎(王都ダンジョン)

第290話 旅の始刻

 君たちは疑問に思ったことがないか?

 この世界の中心はどこか。

 自身は世界のどこにいるのかを。


 世界は自分を中心に廻っている。

 世界の主人公は自分であると。

 それは正しいだろう。


 しかし同時に、誰かが主人公であれば、その脇で生きる者であると。

 何者でもないと。

 それを自覚できているであろうか。


 勘違いしないでほしい。

 人生を否定したいわけではない。

 自分の人生は自分が主人公である。

 ただし、誰かの人生にも関わるのだ。


 人は一人では生きていけない。

 孤独などと謳う愚かな者は何も理解していない。


 だから、我は排除する。


 物語の主人公にも、物語に介入することすら許されない、孤独な者を。


 始まりですらない人生を。


***


 おはようございます。

 紡車つむが紡希つむぎこと、ツムギです。

 冒険者をしています。


 現在、俺はクラスメイトと魔王復活を阻止するために行動しており、王城に寝泊まりしています。


 で、だ。


 旅の始刻。

 つまり朝の6時くらいで、冒険者が旅に出る支度をする時間帯である。

 目が覚めた俺は、何故か裸だった。

 隣で寝ているヒヨリも裸だった。


 クラス一の美少女が裸で、隣で、寝ていました。


 さて、どうしよう。


***


「ツムギくん、おはよぉ……って、なんで土下座してるの?」

「いや、どう責任とろうかと」


 小さくあくびをしたヒヨリの前で結婚出産育児などを考えていると、


「え? ああ、これは私が裸族なだけだよ?」

「なんで俺も脱がされてるの!?」

「気持ちいよって言ったら、真似するって脱いだんじゃん」


 そうだっけ……? 記憶にない。

 まあでも、何事もなかったならよかった。

 ちょっとまだそこまで責任を負う勇気はなかった。というか無自覚無責任はさすがに男としてもよくないだろうし。


***


 ヒヨリの意外な部分を発見できたということで、この件はおしまい。

 朝食を取り終わった後、俺は光本と藤原、ヒヨリと両木の5人で王都ダンジョンへと潜っていた。


「今回は先に地下の方を攻略しようと思う。

 前回出たというドラゴンは紡車くんが倒してくれたらしい、たぶん最下層までいけるだろう。

 でも、紡車くんが一緒に行動してくれると決めてくれて、ほんとによかった」

「ちょっと、いろいろと事情が変わったからな」

「ヒヨリに絆された」

「ちょっとセツナ!」


 両木の横やりにヒヨリが顔を赤くする。間違ってないですはい。

 男性陣は苦笑いである。


「まあ、ミーティングで紡車くんから魔族の話も聞けたし、引き続き僕たちはレベルを上げていこう」

「その前に、ちょっといいか?」


 光本が今日の予定を離していると、藤原が手を上げた。


「紡車、先に言っておかないといけないことがある。

 その……この前は悪かった!」

「この前……?」

「いきなり魔法で攻撃したのは悪かった」


 何だっけ。ああ、光本と模擬戦した時か。


「いや、もう気にしてないから」

「そ、そうか。よかった。

 これからは仲間としてよろしくな!」


 藤原は笑顔を見せると、拳を握って俺の前に伸ばしてくる。

 ……何? ていうか、この人少し怯えてない。俺そんなビビらせるようなことしたっけ?


「ほら」


 いや、なにがほらなのか分からない。


「友達って言うのはこういう時、拳を触れ合わせる」


 両木が耳元で囁いた。

 なるほど、テレビでみたことがある。

 俺も拳を出して触れ合わせた。


 ぼっちはこういうの慣れていないんですよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る