第49話 ドラウグル

「いやあああああああああああああああ!!」


 ナナの叫び声が響き渡る。


 声にほかの音が掻き消されながらも、センの首が地面に落ちるのは見えた。

 それをスカルヘッドも見ていたようで、嬉々とした様子で首に近づく。


「――さま!」


 スカルヘッドはセンの首を掴むと、まず目玉を抉り取った。

 そして、髪を引っ張り上げて皮ごと剥ぐ。


「ご――!」


 一方、その隣で首を失ったままのセンの身体。

 倒れることもなく、その首元から――赤い泡が吹き出していた。

 見ていたナナが口をパクパクと動かすが、声が出ていない。

 泡は徐々に形を成していく。

 センの身体と同じくらいの大きさになり、赤から黒に変色する。

 やがて穴が二つ開き、ぎょろりと白い目のようなものが飛び出し――


 ――赤ん坊のような顔が生まれた。


「Λrrrrrrrr」


 黒い顔が泣き声のような声を上げながら、今にも裂けそうな口を開くと、そこには何十本という牙が生えている。

 なんだ……あれは。


「ご主人様!!」

「――っ!?」


 オウカの声が耳に入る。

 息を荒げる彼女を見て、何度も呼び掛けていたことに気付いた。


「オウカ……」

「ご主人様、早く、助けないと!」


 オウカの口元が震えている。その視線の先には、センの身体から現れた謎の生物と、それを見つめて動かないナナの姿。


 俺は――何を呆然としていたんだ!


 恐怖に飲み込まれるな。いま俺たちは戦っているんだ。

 命がかかっているんだ。


 冷静になれ、戦況を把握しろ。何が起きているか、何をすべきかを考えろ。

 

 スカルヘッドは肉を削ぎ終えており、頭蓋骨の上部を石で叩き割ると、中のものを啜り始める。

 隣の二頭身生物は――ナナをじっと見ているだけで動く気配がない。


◆ドラウグル

 種族 :アンデッド

 レベル:28

 HP :420/420

 MP :0/0

 攻撃力:280

 防御力:420

 敏捷性:280


 アンデッド……。

 マティヴァさんの言葉を思い出す。


『彼の持っている武器が死者を操る剣らしいのよ』


 自称ネクロマンサー。

 スカルヘッドの持っていた長剣はネイクラさんの武器で、切られた者はアンデッドになる、というわけか。

 その武器は木に刺さったままでゴブリンの手元から離れている。

 アンデットが動かない理由はなんだ。スカルヘッドが指示していないから? それとも、武器の所有者がいないから?


 どっちにしても、最優先は黒い剣の回収。

 スカルヘッドにもう一度使われたら――あの敏捷性との組み合わせに対応する方法が思いつかない。

 

 俺がすべきこと。

 悔やむことでもない、助けることでもない。

 まず、状況を有利にする。


 首元の数字に手を添える。


「絆の盟約は別たれた」

「ご主人、様?」


 赤い稲妻が首元を流れる。


「オウカ……逃げて、生き延びてくれ」

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