第50話 主

◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:56

 HP :500/500

 MP :830/830

 攻撃力:560

 防御力:620

 敏捷性:550

 運命力:56

 

 ステータスが元に戻ったところで、スカルヘッドとの大差は埋められないか……。


 それでも――


「逃げるんだ」


 視線を向けずにオウカへ告げる。

 しかし、


「嫌です」

「死ぬぞ!」

「ご主人様を置いて逃げるくらいなら死にます!」

「ふざけるな!」


 反抗するオウカの頬を叩いた。


「軽々しく死ぬなんて言うんじゃねえ!

 生きたいと願え! 抗え!

 何かを失ってでも、命だけは失うな!

 生きることに執着しろ!!」


 オウカを睨む。

 頬を赤くしたオウカの視線が俺へと戻ってくる。

 そこには、絶対的な意志を宿した金色の瞳があった。


「私の命は、ご主人様の命です」

「……たかが二日しか一緒にいない俺に、奴隷のお前がそこまで」

「ご主人様は名前をくださいました。それだけで、命を捧げる覚悟に足ります」


 名前――それだけの理由で命を預けられるのだろうか。

 この子は、ただ奴隷契約によって、そうすべきだと判断せざるを得ないだけじゃないのか。

 それなら、俺ができることは。

 オウカを守ること。


 一度、深呼吸。


「オウカ、ご主人様からの命令だ」

「はい、なんなりと」

「絶対に死ぬな。そして――俺に守られてろ!」


 そう言い放ち、俺は走り出した。


 スカルヘッドはひと回りも大きい頭蓋骨を被ろうとして、邪魔な部分を石で叩き壊している。

 奴の視界に入らないように回りながら、剣の刺さった木の根元までたどり着く。


「くっ……!」


 長剣を握って引き抜こうとするが、想像以上に深く刺さっていた。

 あのゴブリン、どんなスピードで突っ込んだんだ。


 奴には「俊足」というスキルがあったな。

 あれを使ったなら、異常なスピードでの攻撃も頷ける。

 使われないようにするには、奴をできるだけ刺激しないことか。


「ご主人様!」


 オウカの叫び声。

 振り返ると、スカルヘッドがセンの頭蓋骨を被り終えていた。


「んぐぁ!」


 木に足を掛け力いっぱい引っ張ったところで、ようやくネクロマンサーの剣が抜ける。

 再度スカルヘッドの方を向いて――視線が交わった。

 抜く際の動きが認識されたか。

 奴のスピードに対抗できるか。

 構えたところで、スカルヘッドの背中に何かがぶつかったのが見えた。

 ダガーだ。スカルヘッドの皮膚に突き刺さることなく、跳ねて地面へと落ちる。

 あのダガーはオウカに渡したものだ。オウカがスカルヘッドの気を逸らそうと咄嗟に投げたのか。


 このタイミングを利用する――!


 剣を持って、ドラウグルの方を向く。


「ドラウルグ、主に従って敵を屠れ!」


 声を上げるが、反応がない。

 剣を持っただけではネクロマンサーとは認識されないということか。

 ならば、あのアンデッドは切った者を主として認識し行動の指示を受けるのだろう。

 しかしスカルヘッドにそんな知能はない。

 ドラウグルは放置して問題ない。


 スカルヘッドを目標に走り出す。

 オウカに向けられていた視線がこちらに戻ってきた。


「あぁああ!」


 ダガーを投げてもダメージは与えられなかった。

 しかし近距離で剣を振り下ろせば――


 力任せに振った剣が震えると同時に、甲高い金属音が響いた。


 目の前で剣身の半分が宙を舞う。

 ――折れた、だと。

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