第51話 地魔法

「Дィィィイイ!」


 スカルヘッドの蹴りが腹部に直撃した。

 痛みが声になるより先に、奴の爪が俺の頭を掴もうとする。

 だが、蹴りの勢いで身体が後方に飛んだために緑の手は空を掴んだ。


「がっ!?」


 吹っ飛んだ身体が木にぶつかって止まる。

 一瞬ぶれる視界に、こちらへと飛び込もうとしているスカルヘッドの姿が映る。

 咄嗟に地魔法を発動した。下から土が盛り上がり俺の前に壁ができる。

 同時に、その壁がスカルヘッドによって壊された。


 ――やはり、早い!


 砕け散る土破片に紛れて、森の奥へと走る。

 一旦スカルヘッドの視界から消えなければ攻撃が続くだけだ。

 奴に気付かれないよう暗闇の中を駆けまわりながら、一応ダメージを確認する。


◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:56

 HP :328/500


 スカルヘッドに物理的な攻撃は効かない。

 しかしながら、センとナナのキズナアビリティは効いていた。

 防御力は高いが、魔法ならダメージを与えられる可能性が高い。


 たどり着いたのは、ドラウグルの正面――ナナの真後ろだ。

 スカルヘッドはこちらに気付いた様子はなく、葉っぱが数枚散る方向を見つめている。


「ナナ! 手伝ってくれ!」


 少女の肩を掴むが、反応がない。


「目の前のアンデッドは襲ってこない。だからスカルヘッドを集中して攻撃するんだ。魔法でなければ倒せる可能性が低い!」


 少女の目は虚ろだ。何も見ていない。

 完全に心を閉ざしている状態だ。


「センとのアビリティみたいに――」


 その名前を出した時、少女が反応した。


「――イヤ」

「は?」

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! センが、センが死んじゃった!

 セン、センセンセンセンセン!!!」


 ナナが頭を抱えて泣き叫ぶ。


「俺たちは冒険者だぞ! いつどこで死ぬかは分からない。

 それくらい当たり前だろ!」

「嫌、嫌だ……セン、センん……」


 いなくなった母親を呼ぶ子供ように、少年の名をつぶやき続ける。


 こいつ……冒険者としての覚悟が足りなさ過ぎる。


 俺たちは命を狩っている。

 それは逆に狩られることもあるということだ。


 それだけだ。それだけなんだ。

 それが分かっているのが当然だ。


「ふざけるなよ!」


 ナナの胸倉を掴む。

 少女は俺と目を合わせようとしない。

 この状況から逃げようとしている。


「なんのためにセンが戦ったと思う? 生きるためだろ!

 ならお前も生きなきゃ意味がないだろ!」


 俺の言葉に、ナナがようやく目を合わせる。


「生き……」

「そうだ、俺たちは生き、な、きゃ……?」


 突然、腹部が熱を帯びる。

 顔を下すと、俺を突き抜けてスカルヘッドの腕が飛び出していた。


 背中から、突かれた?


「あ、え」


  意識が、薄れて――

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