第48話 真っ二つ

 森の中を閃光が駆け巡る。

 雷鳴を響かせたそれが七つ――すべてスカルヘッドへと直撃した。


「ィДッ!?」


 ゴブリンから悲鳴にも似た声が上がる。

 スカルヘッドの全身を稲妻が駆け巡る。


「どうだっ!」


 スカルヘッドから飛び出した稲妻が地面にぶつかると、そこにセンとナナが現れた。

 自らの肉体を電撃として七度の攻撃を同時に行うのか。

 なかなか強力なアビリティだ。もろに受けたら即死もありえるだろう。


 だが、スカルヘッドは――


「ィィィД」


 立っていた。背中には焦げ跡が残り、黒い煙が立ち上がっている。


◆スカルヘッド・ゴブリン

 種族 :ゴブリン

 レベル:120

 HP :96/988

 

 削り切れない。ゴブリンは肌が固いせいか防御力が高い。

 しかし、HPも残りわずか。

 いまの勢いでもう一度攻撃を仕掛ければ――。


 だが、センとナナは動かない。


「ね、ねえ、セン。あのゴブリン、まだ生きてるよ!?」

「くそっ! すぐには動けないぞ!」


 二人の表情から焦りが見て取れる。

 キズナアビリティは連続して使えないのか。

 確かに、ゲームでも魔法を行使するのに硬直時間だとかリキャストとかあるが、この世界にも似たものがあるのか。

 単純なスキルなら連続で使えることは俺も確認している。詠唱が必要なものやアビリティの連続使用までは知らない。


 ともかくそんなデメリットがある以上、俺も参戦しなければ二人が危険だ。

 そう思い立ち上がったとき、


 ――パキッ


 何かに亀裂が入ったような音。


 音が次第に大きくなり――スカルヘッドの被っていた頭蓋骨が真っ二つに割れた。

 砕けたネイクラさんの骨が地面に落ちる。


 瞬間、


「ййййййййййййййДッッッ!」


 スカルヘッドが喉を潰したような奇声を上げた。

 ただの声とは違う、プレッシャーの混じった怒号だった。

 スカルヘッド・ゴブリンたらしめる要素は、倒した人間の頭蓋骨だけだ。

 アイデンティティともいえるそれを壊されたのだから、あの反応も至極当然。

 

 スカルヘッドが長剣を持ち上げる。

 その視線はセンとナナへ向いていた。


「よし、もういけるぞナナ!」

「私も!」


 二人も硬直が解けたらしい。再度手を繋ぐ。


「キズナアビリティ――」

「――――」

「おい、ナナ! 早くアビリティ、を?」


 いまのセンには何が見えているだろうか。

 絶望に顔を歪めたナナだろうか。

 星と月が輝く夜空だろうか。

 スカルヘッドがいたはずの場所だろうか。


「Дτ……」


 俺にも、オウカにも、ナナにも、たぶん見えていなかっただろう。

 スカルヘッドが何をしたのかなんて分からなかった。

 ただ、結果だけがそこに残っている。


 センの後ろの木が大きく揺れた。

 いつの間にか、木の幹には長剣が突き刺さっており、その隣にスカルヘッドがいる。


 そして――


 怪訝な顔をしたセンの闇夜を舞っていた。

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