第316話 全て塞がれて

「殺してみろ、って……」


 魔法の効かない相手にどうすればいいのか、召喚された全員が答えを得られずにいた。


「な、なんなんだ! なんなんだよお!」


 状況の飲み込めていない青色のパーカーを着た生徒が、エル王女に扮したクラヴィアカツェンに向けて手を伸ばす。

 変な奴が現れたから、倒さないといけない。それくらいしか考えていない、気の動転した表情であった。


「静寂よ、命の源よ、地の奥より――」

「くだらないですわね」


 青色のクラスは魔法に強い。故に魔法で敵を攻撃しようとするのは反射に近い行為。

 しかし、クラヴィアカツェンはエルの顔でにこりと笑うと、次には腕を上に向けて振るっていた。

 途端、生徒が呻き声を上げて宙に浮かぶ。


「こんな時に詠唱付きだなんて、ポンコツにも程がありますわよ?」


 あくまでもエルを演じる形で、クラヴィアカツェンは生徒の動きを封じる。

 そして、四肢が徐々に逸れるべきではない方向へ。


「こっちはどうなってもいいんですわよね?」


 骨の折れる鈍い音。

 宙に浮いた生徒が血を吐き出し下へと零れる。

 それがきっかけとなったのか――


「きゃあああああぁぁあああ!!」


 女生徒が叫ぶと同時に、会場の生徒たちが動き出した。

 我先にと出口の方へ向かう。


『セイジャクよ、イノチノみなモトヨ、チノおクよりトキハナタレ――ミズマホお』


 詠唱したのは、先ほどクラヴィアカツェンに殺された生徒の死体。

 彼の折れた腕から、逃げる生徒の方面に水魔法が放たれる。


「土魔法!」

「あぁんコウキ様ったらぁ♡」


 咄嗟に光本が魔法を放ってそれを相殺する。

 エルの声がわざとらしく艶めかしい嬌声を放つ。


「エルの真似をするな魔族!」

「あら残念、気に入っていましたのに。

 なら――これならどうだ?」


 クラヴィアの身体が炎に包まれその身が黒く焼けたかと思えば、すぐに火は消え新たな形を成す。

 紫のパーカを羽織った黒髪の少年。

 紡車紡希の姿を見て、光本は悟る。


「そうか、君が紡車くんの言っていたクラヴィアカツェンという傀儡師か!」

「ちゃんとお勉強しているみたいじゃないか」


 今度はツムギの顔で笑みを浮かべる。


「コウキ! 後ろにもいるぞ!」


 藤原の声が聞こえて、光本は咄嗟に後ろに目をやる。

 逃げていたはずの生徒が、一人として会場から出ていなかった。


 なぜなら、いくつかある出入口の前を全て塞がれていたから。


「なぜ逃げられると思ったのか甚だ疑問ですねえ」


 白い布を顔に被せた白ローブの男。

 ツムギから聞かされていた、アンセロという精神魔法の使い手。


「う~ん音が汚い。もっと綺麗に鳴けないものなの?」


 同じく白ローブを羽織った女。

 傷んだ紫色の髪は乱れ、目元にはクマができている。

 ツムギからは聞かされていない新手の魔族か。


「何かを楽しむには」

「相応の対価が必要ですわよ」


 ゴスロリの恰好で、互いに唇を重ね合う黒と白の少女。

 同時に殺さないといけない、ラベイカとクラヴィア。


 そして、壇上にはクラヴィアを作り、死体を操るクラヴィアカツェンと――


「本当に脳があるのか怪しいくらいに騒がしくなるものだな」


 そのすべてを創造したという魔族――オールゼロ。



 ――完全に囲まれた。


 光本の指先は震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る