第317話 交渉
自分たちは勇者候補であり、魔王復活を阻止し、人類を守る役目がある。
そう考えていたことで光本の脳内は少しばかりパニックを起こしていた。
すでに一人の生徒を殺され混乱が生じている。
他のクラスメイトですら冷静に状況を判断出来ているのは数人いるかいないか。
ここにいる全員を守りつつ、魔族全てを相手にできるのか。
――無理だ。
だとしても、
――やらないといけない、のか。
「おや? どうやら動けないようだな」
光本が思考を巡らせた一瞬が何秒だったか。
しかしクラヴィアカツェンはそれを長いと捉えた。口調はツムギのものだ。
「所詮まともに戦い方も学んでこなかったこd――」
が――その声が風切り音とともに遮られ
光本の視界に映ったのは、顔の形が歪むツムギの姿。
否、
「ツムギさんの声真似しないでくださいいいいいいい!」
クラビーが、クラヴィアカツェンを殴り飛ばしていた。
ツムギの姿が数メートル、場外へ吹っ飛ぶ。
傍から見れば、クラビーがツムギを殴ったかのようである。
「あ、やば、ツムギさんを殴ったと思うと気持ちいいですねこれ」
当人は満足気に恍惚な表情を浮かべる。
「く、クラビー……てめぇ!」
「私、ツムギさん相手なら容赦ないですよ?」
殴られたクラヴィアカツェンは、口の中の血を吐き捨てて立ち上がる。
「クラビーくん、タイミングにしても最悪だぞ」
すぐさまクラビーの横にレイミアとオウカが駆けつけた。
目の前で対峙するのは壇上で浮いたままのオールゼロ。
オウカが闇を睨みつける。
「オールゼロ……」
「ほう、初めましてかな、妖狐族の少女」
「いえ、二度目ですよ」
闇が見つめるのは、赤い頭巾を被ったオウカである。
「なるほど、やはりな……」
「……?」
小さな呟きはオウカの耳にはっきりと聴こえた。
「なにが――」
「人類諸君!」
オウカが問いかける前に、オールゼロが声を張り上げた。
濁りのある声にも関わらず、その声は会場によく響いた。
全員が、その声に捉えられたかのように黙る。
狂乱とした場に静寂が戻った。
「怯えることはない、逃げ惑うことはない。
君たちにはキズナリストという神に与えられた力があるのだろう?
そして、目の前には魔王復活を止めるためこの地に降り立った、勇者候補の赤い彼らがいる」
勇者候補、というのを初めて聞いたのか、生徒のほとんどが驚きに目を見開いた。
「そして我らも無闇に殺戮をしに来たわけではない。
――ここでひとつ提案だ」
指差すわけでもなく、「彼女を」とオールゼロが言う。
しかし全員の視線がオウカを捉えた。
「そう、そこにいる妖狐族。
彼女は邪視を運び、人々を呪いへと誘う悪魔だ。
これは人類、魔族共通の敵である。
故に交渉しよう。
――彼女を殺すなら、我らは君たちを傷つけない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます