第339話 殺せない
まだ対抗はできる。
シオンの力はそこまで強くない。
所詮は数回冒険に行った程度の少女なのだ。戦闘能力で言えば奴隷のオウカでも圧倒できる。
しかし締め付けられている当人に、その気力は残されていなかった。
死。
そう望まれて、そう叫ばれて。
オウカの心はすでに疲弊しきっていた。
「あなたが居なければ、こんなことにならなかった!」
――そうだね。
「あなたが来なければ、こんな気持ちにならなかった!」
――そうだ。
「あなたが、あなたが居なければ!」
――だから。
「だから死んでよ!!」
首を掴む手が強くなっていく。
小さくて弱くても、徐々にオウカの首を絞めて呼吸を止めていく。
――生きたい、けど。
シオンに危害を加えることはできない。
オウカがツムギに買われてから、ずっと優しくしてきてくれた。
何も知らない自分にあれこれ教えてくれた。
時々、普通の友達のように接してくれた。
だから、殺せない。
――シオンお姉様は、殺せない。
ならば、このまま。
彼女に殺されるのが正解なのだと、頭の片隅で自分が囁く。
――そういえば、はっきりと聞けなかったけど。
シオンお姉様は、ツムギ様のこと好きだったんだよね。
ふと、そんなことを思い返す。
それは意識が朦朧としてきているせいだろうか。
オウカは考える。
もし自分がいなくなって、そのあと魔族も倒せたら。
ツムギは幸せに暮らせるだろうかと。
――レイミア様と婚約してるんだっけ。でも、私が居なくなればそれも破棄されるのかな。
そうしたら、シオンお姉様はツムギ様に言い寄ったりするのかな。
それとも、二人でツムギ様を取り合いとかするのかな。
どっちにしても、ツムギ様が冒険者を止めることはなさそうですね。戦ってるときのツムギ様は活き活きとしていますもん。たぶん、依頼をこなすときが一番楽しんだろうな。
そんなツムギ様だから、そのうち二人にも愛想つかされちゃいますかね。でもお二人は優しいから、ツムギ様のこと見捨てたりしないか。
ツムギ様っていつも独りみたいな顔してるけど、ほんとは結構寂しがり屋だし、なんだかんだ誰かの近くに居たがると思うんですよね。
二人がツムギ様の寝顔なんて見ちゃったら、たぶん可愛がりたくなっちゃうんじゃないかな。
そしたら……私はもういらないよね。
私が居なくても、ツムギ様を幸せにしてくれる、隣に居てくれる人はいますよね。
だから。
視界が白くなる。
意識が、途切れる――。
「愚か者よ、まだ奇跡を信じることはできますか?」
目の前に、青い鳥がいた。
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