第361話 魔剣

「脳喰らい……」


 俺はこれまで一つの疑問を抱いていた。

 オールゼロが魔族を作った。そしてそれは過去に存在した人物。

 だとしたら、その情報は何処から齎されたのか。

 答えはシンプルにオールゼロ自身からである。

 しかし、だとすれば個人のみが手にするアビリティまで再現することなどできるのかと。

 その疑問への答えにたどり着いた。


「つまり、お前は、他人の能力を喰らうのか」

「当たらずとも遠からず、と言ったところだな」


 オールゼロは淡々と答える。

 俺はちらりとオウカの方に視線を移す。

 オウカはクラビーを抱きしめたままオールゼロを睨みつけていた。その表情だけで殺せそうなほどだが、クラビーを抱えたまま動くのは難しいのだろう。

 この状態では俺自身も動くのは危険だ。


「それは邪魔かろう」

「うわっ」


 俺の視線に気付いたのか、オールゼロがそう呟くと、クラビーの姿がふっと消えた。

 同時に後ろの方で驚いたような声が聞こえる。

 振り返ると、クラスメイト達のいる場所にクラビーが移動していた。


「どういうつもりだ……?」

「これ以上、邪視が暴走すれば世界すらも滅ぼしかねないからな。

 我からの温情だよ。余計なものを抱えて戦ってもつまらぬだろう?」


 適当な言葉を並べているようにしか聞こえない。

 しかし本当に邪視がオールゼロの驚異に値するものだとすれば、クラビーの件で九尾になったオウカを危険視するだろうか。

 だとすれば――


「まずは君からだ――妖狐族」

「オールゼロォ!」

「させるかッ!」


 オールゼロがオウカの方を向く。

 オウカが叫び、再び魔剣を両手に握り締めると同時に、俺も動いた。


 オウカだけは殺させない。

 それだけは、これ以上は、失えないんだ。

 失いたくないんだ。


 ありったけの火球を同時に発動させて、オールゼロとオウカの間に挟み込む。

 そのままアイテムボックスから短剣を取り出してオールゼロに斬りかかった。


「ふむ、君は相手にならない」

「ッ!?」


 虚を撫でる感触。同時に俺の腹部へオールゼロの蹴りが炸裂した。

 耐えようとしたが、勢いに負けて身体が後ろへと転がる。


「くらぁあああ!」


 オウカが高く跳び火球を越えてオールゼロに襲い掛かる。

 その速さは、目に見える魔力が軌跡を生むほどだ。

 二人がぶつかり合う。今のオールゼロであれば攻撃が当たるはず。

 だが、オウカの動きは止まっていた。


「くッ!」

「これを出すことになるのは、致し方ないか」


 オウカの攻撃を封じたのは、二本の長剣。

 銀と黒のそれらを交差させ、オウカの魔剣を受けきっていた。


「ふんッ!」

「きッ」


 オールゼロが力強くその二本でオウカを振り払う。

 押し負けたオウカが後転しながら下がった。


「どうして……」


 オールゼロを睨みながら、オウカが呟く。

 どうしてオウカの攻撃が防がれた?

 あの剣は魔力を固めて剣の形にした、いわば魔力の塊だ。そんなものをぶつけられれば、剣が砕けて当然だ。

 そう、ならばあれは普通ではない……。


「かつて勇者が魔王を討伐する際、その手に魔剣を握り締めて挑んだ」


 オールゼロが銀の剣を前に出す。


「対して魔王もまた、魔剣を所持し、勇者に対抗した」


 次に黒の剣も前に出す。


「妖狐族の君が魔剣を生み出すとは思わなかった。

 この世界でそれは、三本目の魔剣だ」

「……まさか」

「そう、これは物語で語り継がれてきた、伝説の二本。

 魔王を穿つ魔剣――から喰らい。

 そして、神域を犯す魔剣――かけ喰らいだ」

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