投星祭(南の鉱山)

第124話 投星祭

 クラビーのお見舞いが終わり、宿へと戻ろうと歩いている途中。

 子供が集まってわいわいと騒いでいる場所があった。

 よく見れば、奴隷商の前だ。


「あら、ツムギじゃない。暇なのね」

「散歩じゃねえよ。何してるんだ?」


 覗いてみれば、シオンを中心に子供たちがなにかをしているのだが……。

 子供たちの顔には、絵の具で遊んだかのように、様々な色が付着していた。


「お前、その歳にもなって子供と泥遊びか……?」

「違うわよ!? 投星祭の準備よ」

「とうせいさい?」

「星を投げるお祭りよ」


 星を、投げる?


***


 数多く存在する魔石の中には、投げると遠くまで飛んでいく「飛翔石」というものがあるらしい。

 なんでもこの魔石には特別な働きがあり、満月の夜に月に向かって投げると、月に吸い寄せられるかのように天空へと消えていくそうだ。


「で、満月の夜に、願いを込めて石を投げると」

「数か月後には流星祭をして、流れ星から自分の願いを探すの」

「見つけやすいように木の実で色付けしているってことか」


 シオンの説明を受けて、だいたいの内容は把握した。

 要は七夕である。


「まあ、ほとんどの石は流れる時に燃え尽きちゃうし、石は世界のあらゆる方面に飛んでいくから、自分の願いなんて拾えないでしょうけどね。

 だから願うことは、誰が拾っても幸せになれるようなことにするのよ」

「いきなり夢を壊すなよ」

「拾えば良いことが起こるかもしれないだけマシじゃない」


 確かに、シオンの言う通りではあるのだが。


「それで子供たちはあんなに汚れてたのか」


 見れば、いつの間にかオウカも混ざって一緒に色をつけていた。


「昨日、街にダンジョンが現れて、ギルマスが死んで。今までモンスター一匹すら入ってこなかった街に僅かな危険があったっていうのにね」


 シオンが呆れた様子で息を吐く。


「でも、そんなことは子供には関係ないし、こういう時だからこそお祭りくらいやりましょうってね」

「誰が言い出したんだ?」

「今年のお祭り担当のパパと、騎士団のあのおじさんよ」


 なるほど、余計な不安を生み出さないためか。実際、街を守るのは大人の役割だ。

 子供は元気にはしゃいでるくらいがいい。

 こちらの都合で子供の楽しみにしているお祭りを取りあげるのは酷というものだ。

 ――と、シオンが急に両手をパンと叩いた。


「丁度いいわ。ツムギにお願いしてもいいかしら」

「依頼ならギルドを介してだな」

「もちろん、お祭りのためのボランティアよ」


 断れない言い方をしないでほしい。


「……で、なんだ?」

「投星祭では月に届けやすくするために、願いを込めたものとは別に、大量の飛翔石を空に投げるの。

 だから近くの鉱山まで行って、飛翔石を集めてきて。

 もちろん今夜までに」


 街の森を南に進んで抜けた先に鉱山がある。

 もうお昼近くなんですが……。

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