第125話 乗り物
森の道は複雑だ。
特に南側の森は木々が密接しているせいで、馬などを走らせることはできない。
鉱山があるというくせに、そこに繋がる轍ひとつすらない状態だ。
よって、俺たちがとった方法は。
「ツムギ様、すごいです早いですー!」
「これはなかなかに極楽と言えるでしょう」
乗り物に乗ったオウカと、その頭に乗っているリーが声を上げる。
俺はというと――オウカをおんぶして走っていた。
そうです私が乗り物です。
「スピードなら俺が一人で走った方が早いからな」
木々を瞬時に避けて森を駆ける。
ステータス的に俺は結構なスピードで走ることができる。しかし、オウカは普通のステータスだ。俺が本気になったスピードにはついてこれない。
「リーの
「申し訳ございません。無足歩行は指定式のため、吾の知らない場所では使えないのです」
鉱山は森の外側にある。
リーは長年街を守ってきたから街とその周辺の森しか移動できないそうだ。
一応行ける所までは無足歩行で移動して、残りを俺が走っている。
「まあいいさ、帰りは一瞬になるしな」
一度鉱山に到着さえしてしまえば、帰りは街の中なので無足歩行が使える。これくらいはどうってことないのだ。
***
「話は変わるんだが、リーはこの世界のことについてどれくらい知ってるんだ?」
「どれくらい、というと?」
走りながら、俺は気になっていたことをリーに聞いてみる。
「例えば、回復魔法の原理がどうなっているかとか?」
「ツムギ様、それってさっき話していた時間を巻き戻すとかですか?」
「ああ、リーは長く生きてる精霊みたいだし、少しはそういうことにも詳しいかなって」
「そうですね。回復魔法に関しては、ツムギの解釈は外れていると思います」
「まじかよ」
ちょっとショック。
「回復魔法はマイナスになってしまったものを0にするだけ、と言えばいいでしょうか。なのでステータスに大きく密接しており、その影響を受けやすいのです」
そう言われてしまえば、減るばかりのステータスを元に戻すのが回復魔法本来の役割なのだから納得もいく。
「ツムギの言う巻き戻すのは、回復ではなく時間魔法になります」
「ああ、ちゃんと時間魔法があるのか」
「あると言っても、時間魔法は世界の時に干渉する非常に強力な代物です。
それを扱えるのは相当な強者……ツムギなら余裕でしょうが、何十年に一人がアビリティとして手に入れるかどうかですね」
さらりと俺を持ち上げてくれる優しさに惚れ惚れしつつ。
時間魔法ってのはそこまで強力だったのか。一定空間の時間に干渉するわけではないんだな。
「そうなるとツムギ様、回復魔法は痛くなくて、回復薬が痛いのはなぜでしょう?」
オウカからもっともな疑問、というか俺が仮説を立てるに至った最初の疑念である。
「人間の考えることはよくわかりません」
リーが興味なさそうに答えた。この話は飽きたみたいだ。
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