第126話 小さな女の子

 鉱山の麓まで辿り着いた後、登りは土魔法で擬似サーフィンを巻き起こしながら、とりあえず平坦な場所まで来てみた。


「実際、これを半日でやれってシオンはおかしい」

「それだけシオンお姉様に信頼されてるってことですよ!」


 オウカのはフォローになっているのだろうか。社畜なりたてにかける言葉にしか思えない。


「そういえば、リーは邪視については知っているのか?」


 歩きにくい道を進みながら、さらにリーへと聞いてみる。


「邪視については皆さんと同じ程度しか知りません。

 吾も街にずっといたため、外部の情報はさほど持っていないのです」

「ずっと街を守っていたんだもんな」

「ただ、街には何回か邪視による騒ぎがありました」

「まじか」


 思わず足を止める。


「邪視を持ったものは常人を遙か上回る力を手に入れたとか。

 しかし、思考や言動が人類らしさを失ってもいました」

「大きな力を得る代わりに人間性を失う……か?」


 それだと、クラビーの一件が納得いかない。

 クラヴィアカツェンという別人格が入ってきたのなら、クラビーの精神にも大きな影響があっていいはずだ。

 にも関わらず、クラビーは今日見た限りだと変わった様子はなかった、


 まあ、リーの情報だけで判断するのは早計だ。

 オウカ――妖狐族が邪視に絡んでいるという話がある以上、追々探っていくことにはなるだろう。

 むしろ、あちらから近づいてくれるなら好都合だ。ってなんか死んでもらっちゃ困るとか言ってたな。今後邪視教が俺の前に現れることがあるのだろうか。


「とりあえず、いまはボランティアを優先しますか。

 ここに転がってる石が飛翔石でいいんだな?」


 足元には様々な大きさの石がゴロゴロと転がっている。

 試しに一つ拾い上げて森の方へと投げてみる。


「ほいっ、と!?」


 投げた瞬間、石は脱兎のごとく猛スピードで飛んでいってしまった。

 おお、これが飛翔石。すごい飛ぶな。


「これを集めればいいんだな」

「頑張ります!」

「吾も手伝い――!?」


 リーが何かに気付いたのか、急に別の方へ顔を向ける。


「どうした?」

「……今すぐ隠れてください」

「なにかいるのか?」

「いるので隠れてください」


 いるそうだ。

 オウカといいリーといい、俺の見える所より先で察知できるのはなんなの。チートなの。

 とりあえず3人で近くの大きな岩陰に隠れる。


「まさかこんな場所で会うなんて思いもしませんでした。

 やはりあの街に引きこもっているべきだったかもしれません」

「なにニートみたいなことを……あれか?」


 視界に小さな人影。

 石だらけの道を――裸足で登ってきた。


「……子供?」


 小さな女の子だった。

 当人には少し大きめな桃色のシャツを一枚だけ着ている。

 赤くなりはじめた日に照らされた金色の髪。よく見れば足元まで伸びていて、小石を少しばかり巻き込んでいた。

 何故か頭をメトロノームのように左右へと揺らしている。

 というか、目を閉じて歩いている。

 っていうか、寝ながら歩いてない?


「ツムギ、ここは見なかったことにしましょう」

「あの子がなんだっていうんだ」


 問うと、リーが珍しく一呼吸おいてから口を開いた。


「精霊の母であり父。

 唯一、この世界と契約を交わしたという神にも等しい存在。

 原初の大精霊――クィ」

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