第30話 認識

 もしかして、ゴブリンは武器を武器と認識していない?


 それなら、なんで俺を遮った。

 奴ら……単純に動くものに反応しているだけか?

 一瞬は短剣の動きに反応したものの、その後の俺の動きに切り替えたことで、まるで武器を遮るような状態に見えただけなのでは。

 森の中では考えもしなかったことだ。

 

 しかし、本当にそうなら、チャンスはある。


 俺は走り出した。

 短剣が落ちている場所と真逆の方向へ。

 俺の動きに反応してゴブリンも追いかけてくる。

 よし、やはり奴らには考えるほど脳がない。


 ゴブリンに追い付かれないギリギリのスピードで走り続ける。

 そして、壁が近くなったところでスピードを上げた。


 勢いに乗ったまま、壁に向かって飛ぶ。

 足の裏で壁を蹴ると――ゴブリンの頭上を通過した。


 「Дッ!?」


 ゴブリンが驚いたような声を上げる。

 全身で転がるように着地した俺は、すぐに体勢を戻して再度走り出し、短剣を取り戻した。


 「いまぁ!」


 全身をばねの様に飛び跳ねさせ、その勢いで1匹のゴブリンに短剣を突き刺した。

 魔石を貫いた感触はない。が、


◆ゴブリン

 種族 :ゴブリン

 レベル:3

 HP :0/50

 MP :0/0

 攻撃力:22

 防御力:46

 敏捷性:22


 ゴブリンの肉体が四散する。


「つぎぃ!」


 勢いに乗せて短剣を振る。

 本能のまま俺に向かってきたゴブリンの腹を切裂く。

 ――固い感触があった。


「Д……」


 呻き声を上げたゴブリンがその場で倒れる。運よく魔石を切ったみたいだ。


「ДιДιДι!」

「うぐ!」


 背中に痛みが走る。

 後ろでゴブリンが爪を立てていた。背中を引っかかれたか。


「この程度!」


 短剣を振り上げてゴブリンの脳天を突き刺した。

 跡形もなく四散。


「終わっ、た……」


 空間に静寂が戻る。

 なんとか3匹を倒せた。


「痛っ」


 背中がヒリヒリする。

 急いでアイテムボックスを開いて回復薬を取り出す。

 蓋を外し、背中へとかけた。

 少しだけ焼けるような感覚に襲われるがそれも束の間。


◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 ジョブ:-

 レベル:21

 HP :190/190

 MP :210/210

 攻撃力:210

 防御力:240

 敏捷性:200

 運命力:21


 アビリティ:異言語力・異界の眼・絆喰らい


 レベルが上がっている。しかし、スキルなどは増えていない。

 残念だが、それよりもゴブリンを倒せたことに安堵する。

 3匹同時は初めてだったが、なんとか倒せた。

 回復薬もまだ沢山ある。クエストの報酬で買い込んでたのが功を奏した。

 これなら、閉じ込められたこの場所で、残りも……。


 ――あと何日、何時間、戦うんだ?


「ӔӘӘӘӘӘӘӘӘӘӘӘӘӘӘӘӘ!!!」


 赤ん坊の泣き声に似た音が耳を劈いた。

 モンスターの声……だが、聞いたことのないものだ。

 ダンジョンには一体どんなモンスターが――。


 穴から、何かが空洞に入ってきた。


「……なん、だよ」


 その姿に、それ以上の言葉が出てこない。

 自分よりもひと回り大きいゴブリン。

 肥えた腹を揺らし、左手にはこん棒らしきものを握っている。

 顔には目がひとつしかなかった。


◆オプス・ゴブリン

 種族 :ゴブリン

 レベル:30

 HP :495/495

 MP :0/0

 攻撃力:598

 防御力:428

 敏捷性:363


「ふざけんなよおおおおおお!!!」


 怪物に向かって走り出した。

 無謀だとわかっていても、ここで生き残るには――。


「ッ――!?」


 しかし、容易くオプスの腕に捕まる。

 でかいくせして、腕の動きが想像以上に速い。

 握力が俺の全身を軋ませる。


「ああ、このっ!」


 反撃しようにも、腕ごと抑えられて動けない。

 視界が揺れる。

 高く持ち上げられたのだと気付いた瞬間――地面に叩きつけられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る