第31話 嗚咽

 ドスッ、ドスッ、ドスッ


「あっ……あぐ……うっ……」


 全身に衝撃が来るたび、喉が揺れて嗚咽が漏れる。


 地面に叩きつけられ、身体が思うように動かなくなった後、オプス・ゴブリンに押さえつけられて、こん棒で左腕を叩き潰されていた。

 調理の下準備のように、何度も何度も何度も。

 ただ力まかせに潰されて潰されて潰されて潰されて。


 ドスッ


「は、はや……ぐ」


 呼吸などまともにできないでいる。

 それでも、わずかに動く右手でステータスを開いた。


◆ツムギ

 HP :85/190


 HPが削られている。


 ドスッ、ドスッ


「が、がいぶ……くぼ、じな……いと」


 回復しなければ死んでしまう。

 死んでしまうのだ。


 ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ


「う、ぶで、あ゛、うで、がいぶっ、ぐじなぁ、いど……お゛っ、もどら、な」


 叩かれながらも、こうしなきゃと子供の様に声が漏れる。

 叩かれる衝撃に合わせて、涙の溜まった視界が揺れる。


 ドスッ、ドスッ


◆ツムギ

 HP :44/190


「だう゛、げで……あっ、……う゛……」


 はやく、はやく回復しなきゃ。

 腕に薬をかけないと、戻らなくなる――。


「ӘӘӘӘӘ!」


 オプス・ゴブリンが甲高い声を上げる。

 弄ばれている。

 こいつは、死にゆく姿をみて楽しんでいるんだ。

 蟻を踏み潰す子供みたいに、無邪気に遊んでいるんだ。


 なんだよ。俺は蟻かよ。

 いや、蟻以下だ。

 無力で、一人じゃ何もできなくて。殺されるだけの劣等者で。


 でも――。


『強くなろうね』


 強くなって、生きたかった――。


◆ツムギ

 HP :20/190


 ――――。





 衝撃が治まった。


「――あ」


 ぐちゅり


「あぢぃいいいいいああああ!」


 右脚が潰された。


◆ツムギ

 HP :1/190


 ダメだ。動けない。

 視界が徐々に白くなっていく。

 走馬灯すらでてこねえや。


 何も無い。なんも残らない命が消えるだけで。


◆ツムギ

 HP :1/190


 心にぽっかりと穴が空いた気がした。


「……ぁ?」


 白くなりかけた視界に靄がかかる。

 影だ。何かが上を覆っている。

 いつの間にかオプスの攻撃も来ていない。


 なんとか首だけを回して、頭上を見た。




 ――縦長の瞳孔と目が合った。


◆エレミア・ジェバイド・ドラゴン

 種族 :ドラゴン

 レベル:2461

 HP :98440/98440

 MP :98440/98440

 攻撃力:196880

 防御力:159965

 敏捷性:29532


「――――っ」


 悲鳴が出るより先に、視界が黒く染まった。


 が、

 ぶぉん、と熱風が全身を流れたことで、なんとか意識を保った。


 目の前には、青い皮膚の竜。

 皮膚は明かりによって、まるで宝石のように輝きを帯びている。

 しかし、口元は対照的に赤く染まっていた。そこには、首元を食われてぶら下がったオプス・ゴブリンだったものがあった。

 穴の奥へと続く長い首。顔だけを突っ込んでゴブリンを食べたのか……。


 それじゃあ、次は――俺か。


 絶望が、こちらを見つめていた。

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