第101話 赤い華

 動けなかった。

 驚きと、思考の優先で身体が反応しなかった。


 気づいた時には、俺の頬に黒髪の少女の手が添えられていた。


「ッ!?」


 ニタリと浮かべられた少女らしからぬ笑みは、人形に悪意でも宿ったよう。

 一瞬不気味な感覚に飲まれそうになった俺は、はっと我に返る。同時に身体がようやく動いて、後ろへと飛び下がった。


「嫌われてしまいましたわね、ラベイカ」

「ちょっと恥ずかしがり屋さんなのよ、クラヴィア」


 白が笑い、黒も笑う。


 何かされた……のか?


 異界の眼を発動。


◆ラベイカ

 種族 :魔族

 レベル:666

 HP :6660/6660

 MP :6660/6660

 攻撃力:6660

 防御力:6660

 敏捷性:6660


 アビリティ:赤い華

 スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法



◆クラヴィア

 種族 :魔族

 レベル:555

 HP :5550/5550

 MP :5550/5550

 攻撃力:5550

 防御力:5550

 敏捷性:5550


 アビリティ:青い唇

 スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法


 黒髪がラベイカで、白髪がクラヴィア。

 やはり魔族だ。

 首元の数字は03と04。キズナリストではないのだろう。見た目からして双子なのか。

 ステータスは人類に比べれば天と地ほど差がある高さ。でもそれはアンセロの時も同じだったし、それ以外は特別な要素も見当たらない。

 しかしアビリティはしっかりと持っていやがる。


「ツムギさん、子供の誘拐はちょっと」

「クラビーは黙ってろ」


 水を差そうとしたクラビーの言葉を弾く。ふざけたことを言っている場合ではない。

 オールゼロ。俺を殺すと言った奴が目の前まで来ているんだ。そんな相手に顔と名前まで知られてしまった。


「お兄さん、何をそんなに怯えているのかしら」


 黒髪のラベイカが見透かしたかのように告げる。


「ただ殺されるだけ、痛いのは一瞬ですのよ」


 白髪のクラヴィアが小動物を可愛がるかのように囁く。


 ふざけるな。

 死ぬ気なんざ毛頭ない。


 戦うしかない。


「そんな獣みたいな視線」

「熱くなっちゃいますわ」


 双子魔族が互いの指を絡め合う。

 大きな吐息を漏らしながら頬をこすり合わせていた。


「余裕を持たなければ、立派な紳士にはなれませんことよ」

「紳士なんぞ、なる予定がないんでな」

「まあ、これだからぼっちは」

「人を思いやる気持ちが足りませんわね」


 向かい合う二人。吐息が交じり合う。


「ワタクシたちは」

「こんなにも想い合っているのに」


 双子の唇が重なった。


 ――突然なにを始めてるんだ?


「あっ……はぁ、素敵よクラヴィア」

「ラベイカこそ、絡みつきが激しいですわよ」


 ねとり、ねとりと、明らかに舌まで絡み合わせている。

 歩いていた街の人々も、足を止め驚いた様子で双子を見ていた。


「そう、たまらないのよ……クラヴィアの」


 ラベイカがクラヴィアの舌を歯で挟んで口の中から引き出し。


 ――噛み千切った。


 周辺から、小さな悲鳴が漏れる。


「クラヴィアの舌は口の中でよく絡んで、ほんと美味ですわね」

「嫌ですわラベイカ。皆さんの前ではしたない」


 ラベイカが噛み千切った舌を咀嚼する。

 その隣で、クラヴィアは口から洩れた血をで拭った。


 ――舌が復活している?


 どういうことだ。あれも魔法なのか、アビリティの能力なのか。

 目的は何だ。

 状況は――十数人かはいる住民の視線が集まっている。

 まさか、それが目的なのか。


「恥ずかしいなら」

「なかったことにしましょうか」


「全員! もう見る――」


 叫んだ。

 が、


赤い華シャロウフェロウ


 ――住民の上半身が破裂し、赤い飛沫が舞った。

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