第114話 紛れもない事実

「お、お前ぇぇえええええ!!」


 おじさんが叫ぶ。

 幻覚? いや、アンセロのようなアビリティを持つ者がそういてたまるか。


 紛れもない事実。

 ギルマスが殺された。


「クラビー、お前何したかわかってんのかあああ!?」

「五月蝿い人ですね。

 見ればわかるじゃないですか。

 身内に敵が紛れていた、それだけのことですよ」


 そう言いながらクラビーはラベイカを乱暴に投げ出す。

 クラヴィアの上にいた俺の方へと飛んできたので、後ろへと下がって避ける。


「それと、名前はクラビーじゃないですよ」


 クラビーは手を顔に持ってくると――自らの両目を抉りとった。


「こんな目っ!」


 それを地面に叩きつける。


「すっきりしました。これで本来の自分に戻れる」


 クラビーが目元の血を拭う。

 抉られたはずの穴には、青色の瞳があった。


「邪視、だと」

「なんで邪視なんかが……」

「呪いの瞳がどうして!?」


 全員に戦慄が走る。


「ええそうですよ。気づかなかったでしょう?」


 邪視はステータスに表示されるものだ。

 クラビーのステータスにはそんなもの……。


「これが本来の姿――クラヴィアカツェンですよ」


◆クラヴィアカツェン

 種族 :猫人

 ジョブ:傀儡子

 レベル:20

 HP :12210/12210

 MP :8650/12210

 攻撃力:12210

 防御力:12210

 敏捷性:12210

 運命力:20


 アビリティ:邪視・琴猫

 スキル:上級風魔法・上級光魔法・上級闇魔法・攻撃力上昇・防御力上昇・上級傀儡


 ステ―タスが変わっている!?

 ステータスの表示が変わるなんてことは滅多にあるものじゃない。

 オウカの時のように名前が付いたときとか、その程度だ。

 これじゃまるで、絆喰らいで竜を喰った時の俺みたいな変動のしかただ。


 いや、それ以上の、ステータスそのものが変わったと言える。


「わざわざ冒険者として近づいて、徐々に仲間意識を芽生えさせたところで、後ろからサクッと殺す予定だったんですがね」

「最初から、俺を殺す目的で近づいたのか」

「当たり前じゃないですかあ。

 理由もなしに女の子が集まってくると思います?

 耐性ないんですかあ? ぼっちだから仕方ないですねえ」


 クラビーは喋りながら、ラベイカを踏みつける。


「祠を壊すとは言ってありましたが、まさか乗り込んでくるとは思いませんでしたよ。

 今回はクラヴィの順番だったんですけどね」


 ラベイカを踏みつけたまま、クラヴィアを抱き上げる。


「クラヴィア……クラヴィアカツェン?」

「そうです。こっちの白い子は私の一部ですよ。

 わざわざ双子みたいに作り上げて、再生の力まであげたのに……このざまとは。

 魔族なら、もう少しまともに死ねないんですかねえ」

「……仲間じゃないのかよ」

「仲間? 邪視にも恵まれなかった格下ですよ」


 クラビーが抱きかかえていたクラヴィアを放り投げた。

 しかし、その身体は地面に落ちることなく、宙に浮いた。

 両腕がぶらりと肩の位置まで上がり、顔は壊れたおもちゃの様にぎこちなく動く。

 それはまるで、操り人形のようだった。


「ラベイカの方にいた人はみんな殺しました。

 なら次はこちらですよね。

 ね、ツムギさん」


 クラヴィアカツェンが、今までと変わりない笑みを浮かべた。

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