第115話 クラヴィアカツェン

「おい、ぼっち。何がどういうことなんだ」

「俺にもわかんねえよ」


 状況を整理したいところだが、相手がすでに攻撃態勢だ。

 ゆっくり考察する暇もない。

 今はクラヴィアカツェンとなった――


「あのポンコツをなんとかしないと」

「クラヴィはポンコツじゃないので、できますかあ?」


 武器を構えようとして――身体が動かなかった。


「ツムギ様、何か糸が!」

「おい、動けねえぞ!」

「か、身体が勝手に――!」


 身体が言うことをきかない。

 それどころか、勝手に動き出そうとする。

 いつの間にか身体のあちこちに糸が絡まっていた。


「思い通りにならないのは気持ち悪いでしょう?」


 そう言いながら、クラビーは自身の首元に手を添える。

 赤黒い火花を放つと、首元の数字が0になった。

 オウカとのキズナリストを切ったのか。


「思い通りにならないのは本当に苦痛です。

 キズナリストまで使ったのに、この苛立ちをぶつけましょう」

「させません!」


 叫んだのはお姉さん。


「動けなくても、魔法なら!

 アビリティ――泥遊びスヒジェ!」


 お姉さんの真後ろに巨大なゴーレムが現れる。

 ゴーレムが拳を振り上げて、狙った先は――お姉さん。

 

「な、なんで――」


 激しい音とともに砂埃が舞い上がる。


「――あれ?」

「危ねえ」


 俺の胸元にはお姉さんの姿。

 ゴーレムの拳がお姉さんに向かったところですぐに動いてよかった。


「あれえ? なんでツムギさんは動けるんですかあ?」

「それが分からないからお前はポンコツなんだよ」

「クラヴィに騙されてたツムギさんのほうがポンコツですよ!」


 今度は宙に浮ていたクラヴィアが俺めがけて飛んでくる。

 対して俺は指先から火炎弾を放つ。


『ヒハキエル。アビリティ――メロウフェロウ』


 喉が潰れたかのような声でクラヴィアが青い唇を行使した。

 ぶつかる直前で火炎弾が消える。

 死んでいるだろうクラヴィアを操り、さらにアビリティまで使えるのか。

 ――厄介だ。


 クラヴィアが俺に迫り――


 目の前で、大きく横へと逸れた。

 いや、逸らされた。

 クラヴィアが思い切り蹴られたのだ。


 蹴ったのは――俺の目の前に現れたのは、オウカだった。


「やっと奴隷らしくツムギ様を守れました!」


 クラヴィアの身体がおじさんの方へと飛んでいく。

 おじさんも、すでに糸がちぎれて動けるようになっていた。

 弩を構える。

 そこには光ではない、本物の矢が装填されていた。

 

「こいつはアイテムボックスに入れてた本物だぜ」


 矢が放たれ、クラヴィアが四散した。


「な、なんで動けるんですかあなたたち!」


 クラビーが声を震わせる。


「俺はオウカちゃんに解いてもらったんだが……」


 おじさんも状況が飲み込めず狼狽えた様子で呟く。

 対してクラビーはさらに声を荒げた。


「オウカさん、あなた奴隷でしょう!?

 レベルもそんなに高くないはず!

 そんなあなたが動けるはずがない」

「私が動けた理由がわからないんですか。

 ツムギ様の言う通り、やはりクラビーさんはポンコツさんですね」

「だからポンコツじゃない!!」


 クラビーが目を見開くと、地面に転がっていたラベイカが浮き上がる。

 さらに、壁の向こうから、冒険者の死体が次々と現れた。

 その中には首のない――ギルマスのものもある。


「クラヴィを怒らせた罰、受けてもらいますよ」


 相手の手札も見えないまま、さらに展開するとは。

 やはりクラビーはポンコツだ。

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