第113話 同時

「ァら……?」


 クラヴィアが己の腹部へと手を伸ばす。

 そこにあるのは魔法の攻撃によって開けられた大きな穴だ。


「な、るほど」


 得心した表情でクラヴィアはその場に倒れる。その勢いなのか、もしくはダメージを受けたせいなのか、丁寧に巻かれたいたツインドリルの髪が崩れた。


「あちら、がわの……ですわ、ね」

「そうだ。お前のアビリティは現象を言葉にした上で発動しないといけない。だから発動までに少しばかりか時間がかかる。

 にもかかわらず、おじさんの矢が効かなかったのは、あらかじめ矢が届かないようにアビリティを発動していると推測できた」

「正解です、わ」

「だから俺たちに出来るのは不意打ちだけ。

 それがあちら側の攻撃をお前に当てることだった」

「考えましたわね……でも、ワタクシには、ラベイカが……?」

「気付いたか? 傷が治らないことに」


 倒れたクラヴィアの傷口は再生する気配もなく、血が止めどなく地面へと流れていくだけだった。


「ま、さか」

「おじさんの矢も上手く当たったみたいだな」


 おじさんが最後に放った矢はクラヴィアではなく、最初からラベイカを狙ったもの。

 双子魔族は同時に殺すことが絶対条件だったため、相手の意表を突く方法を行ったのだ。

 

「私のアビリティで作り出したゴーレムの情報は随時私の脳内へと流れてきます。

 二つのダンジョンの隅にゴーレムを置くことで空間を把握し、二人同時に攻撃が当たる場所へと誘導したんですよ」


 同時に、お姉さんの指示はゴーレムを介してギルマスたちにも伝わっていた。


「上手くバラバラにしたつもりだったんでしょうけど、私たちは最初から全員で戦っていたんですよ」

「ラベイカ……ラベイカぁ」


 クラヴィアは既に聞く耳持たずと言った感じで、相方の名前を呟き続けていた。

 倒れた身体を引きずって、壁へと這っていく。


「早く、早くラベイカを食べないと」

「行かせるわけないだろ」


 俺はクラヴィアの頭上へと短剣を振り下ろした。


「ら、べ」


 クラヴィアの四肢が痙攣し、やがて動かなくなる。


「無様な最後だったな」


 おじさんがそう呟いた。


 ――その時、


『はい、本当に魔族としてみっともないですね』


 空間に響き渡る声。


 それは――クラビーのものだった。


 あいつは後ろにいるはず、が視線を向ければそこにクラビーの姿はなかった。

 どこにいった!?


『予定が狂いましたが、まあいいでしょう』


 今度は前方から。クラヴィアが伸ばしていた手の先の壁に波紋が生まれる。

 波紋は徐々に大きくなり――


 壁の向こうから、クラビーが出てきた。


「クラ、ビー……?」


 いや、あれは、本当にクラビーなのか?


 肌や衣服、銀色の髪にまで、まだら模様のように血がべっとりとついている。

 瞳は野生の獣のようにギラついていて、そこからいつものおどおどとした雰囲気は消えていた。

 片手で、身体に穴の開いたラベイカを引きずり、もう片手には何か、丸いものがぶら下がっている。


「余計なものまで食わされて、散々ですよ。かーっぺ」


 クラビーが赤い唾を吐き捨てる。

 同時に、片手に握っていた丸い何かを投げ捨てた。

 それが地面を転がって俺たちの目の前で止まる。





 ――――ギルマスの頭だった。

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