第112話 弓聖-焱-

「行きます!」


 お姉さんの一声で全員が動く。

 おじさんが左方、俺とオウカが右方から武器を構えて走り出す。


「クラビーちゃんは武器がないから下がってて!」

「は、はひっ!」


 まずおじさんが間合いを詰めようとする。

 しかし、クラヴィアの武器は蛇腹剣。


「届くかしら?」


 振られたそれは剣先を伸ばしておじさんへと襲いかかる。


「ちぃっ!」


 おじさんが弩でそれを弾いて、体を転がしていく。


「気をつけろおじさん! ああいう武器は伸びるし、なんなら巻きついたり武器を奪われたりするぞ!」

「先に言っといてくれよ!」

「お兄さんは物知りですわね」


 蛇腹剣が今度は俺に向かって飛んでくる。


「スキル――火炎弾!」


 指先から火球を放つ。

 衝突して勢いを失くした蛇腹剣がクラヴィアの元へと戻ってくる。


「そのスキル……竜のものだったと記憶しているのですが」

「とびっきりでかいのと戦ったよ!」


 クラヴィアに近づいて剣を振るった。


 ――甲高い音が響いて、空中を待ったのは蛇腹剣だ。

 クラヴィアの顔から肩までを斬った。

 しかし、


「痛いですわね」


 その傷はすぐに戻っていく。

 同時に、剣を持った右腕を掴まれた。


「その右手、腐ったほうがいいですわね」

「っ!?」


 クラヴィアの腕を振り払った――が、


「白の熱も言葉に融けゆけ

 アビリティ――青い唇メロウフェロウ


 ぼとりと、俺の右腕が落ちた。


「ツムギ様!」


 オウカがすぐに駆け寄ってきて俺の腕を直そうとする。


「魔法は使うな。大丈夫だ」


 小声でオウカに告げて、アイテムボックスから回復薬を取り出し腕に掛ける。

 煙を立てながらも、腕はすぐに戻ってきた。


 それよりも、なぜアビリティが使えた?


「ぼっち! 話が違うじゃねえか!」

「わかってる!」


 今までと違う点。

 それは詠唱。

 蛇腹剣を拾ったクラヴィアが、僅かに口角を上げて目を細めながら刃を撫でる。


「どうですかお兄さん? ワタクシの能力も捨てたものじゃないでしょう?」

「詠唱によって力が増すのか……勉強になったよ」

「ふふふ、それじゃあ、お代を頂かないとですわね!」


 再び、蛇腹剣が迫ってくる。


「二人とも! B6・3に後退!」


 聞こえた声に従って下がる。

 その声はお姉さんのものだ。


「準備できたか」

「ばっちりです」


 土壁の空洞。

 その隅に小さなゴーレムが数体移動していた。


「ヤコフさんはA2・5まで全力!

 残りはB2・6であの子を抑えて」


 雑な説明の中、冒険者特有の座標指示に従って動く。


「オウカ! あいつに直接触れられるなよ」

「分かりました!」

「おじさんは魔力を溜めろ!」

「わかってるんだよお!」


 俺は風魔法を地面に向かって放つ。

 視界に土埃が舞い、互いが見えづらくなる。


「そんなことしてもワタクシを殺せませんよ」


 クラヴィアの赤い瞳が微かに光る。


「おらぁ!」


 その位置に剣を振るう。

 蛇腹剣とぶつかり合う。


「おじさん!」

「ヤコフさん、A9・4の上!」

「聖なる力を纏いて全てを貫け

 アビリティ発動――弓聖-レレ-」


 俺の真横を光の矢が通り過ぎた。

 しかし、クラヴィアがいるのは反対側である。


「焦りすぎて手元が狂いましたわ、ね……?」


 笑ったクラヴィアの口から――血が漏れた。

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