第111話 リア充推進派

「お姉さん、作戦を教えてもらえます?」

「え、あ、なるほど」


 お姉さんに声を掛けると、俺の行動の真意に気付いてくれたらしい。

 クラヴィアは、自我を持たない魔法を無効にすることができる。

 しかし、自我を持ち彼女の言葉を信用しない俺たちには干渉できない。


 両耳を抑えたのは、物理的に話の内容を聞こえないようにするためだ。


「私が座標の位置を指示します。

 みなさんはそれに従って、移動と攻撃をお願いします」


 結構めちゃくちゃな作戦だった。

 ただ、その目的が何かはすぐわかったので、特に意見することはない。


「ヤコフさん、最大級の攻撃をお願いしますよ」

「任せておけ」


 くつくつ、と笑ったのはクラヴィア。


「お兄さん、近くで見ると本当に素敵な目をしていますのね」


 クラヴィアは耳を抑えられたまま、特に嫌がりもせず俺のことを見つめ続けている。

 突然何を言い出すんだこいつは。


「闇に染まった瞳。感情を殺し、全てを諦観するはみ出し者の目。

 周りを見てごらんなさいな。

 仲間がラベイカにやられたと聞いてから、顔に皺を増やして殺気を漂わせて。

 なのにお兄さんは、この状況をどうするかだけ考えている」


 小さな手が伸びてきて、その指先が俺の目尻に触れる。


「お兄さん――自分の好きなもの以外に全く興味がないのでしょう?」

「――っ!?」


 手を離し、後ろへと下がった。

 クラヴィアの言葉のせい――ではない。

 俊敏性の差で相手の攻撃が読めてしまった。


 俺に手を添え、赤い瞳で見つめ、そうして死角から攻撃しようとしていたのか。

 俺の反応が早かったおかげか、クラヴィアのもう片方の手にはまだ何もない。


「図星ですの?」

「ああ……大当たりじゃないか?」

「典型的なぼっちの思考ですわね」

「その思考を読み取れるお前が敵じゃなかったら、少しは仲良くなれたかもな」

「あらあら、ワタクシとしたことが、お兄さんと愛し合う機会を逃してしまったみたいですわね」


 クラヴィアが左手でスカートをつまみ上げる。

 右手をその内側へと這わせていく。


「代わりに、殺し愛、ということでよろしいですわね?」


 何処に忍ばせていたのか。出てきた右手に掴まれていたのは鞭だった。

 しかし、ただの鞭ではない。

 剣の刃が数珠状に並べられ、じゃらじゃらと音を鳴らしている。

 蛇腹剣とか言ったか……。

 ほんとどこに隠してたんだ。


「ぼっちが大好きなお兄さんには、やはり死んでもらわないと困りますわ」

「アンセロといい、お前らといい、魔族はぼっち撲滅運動に力を入れてるのか?」

「そうですわね……孤独を殺すのがワタクシたちのすべきことですわ」


 どうやら魔族はリア充推進派らしい。

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